心疾患

よくわかる 心筋梗塞Q&A

<提供> 株式会社保健同人社
<監修> 小船井 良夫先生:榊原記念病院名誉院長

1. 心筋梗塞ってどういう病気? 病気の仕組と症状

【働き】心臓はそもそもどんな働きをしている?

全身に血液を送り出すポンプの役割

心臓は胸のほぼ中央にあり、大きさは握りこぶし程度、心筋と呼ばれる丈夫な筋肉でできています。中は袋状で、四つの部屋に分かれており、これらが連携して収縮・拡張を繰り返し、血液を全身に送り出しています。1分間の拍動数は約60回~80回、1分間に送り出す血液は5ℓ~7ℓに及びます。これを1日24時間、休むことなく繰り返すことで、全身のすみずみまで必要な酸素と栄養素を運んでいるのです。
もちろんこれだけの働きをしている心臓にも、酸素と栄養を運ぶ血液が必要です。その役目を担っているのが冠動脈。冠動脈は、大動脈の根元から左右に分かれて、心臓の表面を覆うように、枝分かれして伸びています。この冠動脈内を血液がスムーズに流れることで、心臓もしっかり働けるのです。心臓自身は小さい臓器ながら、全身を循環する全血液中、5%もの血液を必要としています。

●心臓と冠動脈

●心臓は左ではなく、まん中にある
【仕組】心筋梗塞とはどんな病気?

冠動脈が詰まり、心筋が働かなくなる病気

心筋梗塞とは、心臓を動かしている冠動脈に血栓(血のかたまり)ができて、突然詰まってしまう病気です。詰まった先に血液が行き届かなくなり、血液とともに送られる酸素と栄養も滞ってしまいます。酸素が供給されなくなると、心筋はすぐに働きが悪くなり、さらに約20分間で心筋細胞が不可逆的に傷害され、次第に壊死していきます。一度壊死した心筋は元には戻らないため、壊死した範囲が広ければ、急速にポンプの力が低下して、死に至ることも少なくありません。
大切な冠動脈を突然、詰まらせてしまう主な原因は「動脈硬化」です。動脈硬化とは、血管の壁が厚くなって柔軟性を失い、血管内も狭くなっている状態。動脈硬化にはいくつか種類がありますが、心筋梗塞に関係するのは「粥状(じゅくじょう)動脈硬化」と呼ばれるものです。

血管が粥状動脈硬化をおこし、心筋梗塞に至るまで
1. LDLコレステロールが血管壁に侵入

悪い生活習慣などによる血圧や血糖の高い状態は、血管の壁を厚くし、血液の通り道を狭くする。さらに、高血圧や高血糖が続くと血管壁(内膜)を傷つけ、LDLコレステロール(以下LDL)が内膜に入り込みやすくなる。

2. マクロファージがLDLを処理

血管の内膜に入り込んだLDLは、毒性の強い酸化LDLに変化する。酸化LDLを排除するために白血球が血管の内膜に入って、処理能力の強いマクロファージに変化する。このマクロファージは、貪食(どんしょく)細胞とも呼ばれ、酸化LDLを食べることで排除しようとする。

3. 「プラーク」ができる

しかし、酸化LDLが増えすぎると、マクロファージの能力を超えてしまい、酸化LDLを食べたまま、血管壁の中で死んでしまう。マクロファージは「アテローム」と呼ばれる、ドロドロした粥状のものになり、プラーク(隆起)を形成する。その結果、壁はますます厚く硬くなり、血液の通り道はさらに狭くなる。

4. 血小板が集まり、血栓を作る

血圧が上がるなどして、プラークの壁が破れると、傷口を修復しようと血小板が集まり、血栓ができる。血栓によって完全に冠動脈が塞がると、その先に血液が流れなくなり、心筋梗塞をおこす。

【仕組】心筋梗塞の原因「動脈硬化」を招くものは?

主に悪い生活習慣が動脈硬化を引きおこす

心筋梗塞の主な原因は動脈硬化で、この動脈硬化を進めるのが次の危険因子です。なぜ、それぞれが危険因子になるのか、その理由を見てみましょう。

危険因子 理由 * 1.【仕組】「メタボも動脈硬化を招く」といわれるけど、ほんと?
【仕組】「メタボも動脈硬化を招く」といわれるけど、ほんと?

内臓脂肪が高血圧、高血糖、脂質異常を助長

メタボリックシンドロームとは内臓脂肪型肥満で、かつ血液中の脂質異常、高血圧、高血糖のうち二つ以上をあわせ持つ状態のこと。一つの場合は、メタボリックシンドローム予備群と呼ばれています。内臓脂肪型肥満とこれらの病気は、個別でも動脈硬化を進めますが、内臓脂肪型肥満が基盤にあると、たとえ個々の病気が治療の必要のない軽いものであっても、動脈硬化を強力に進めるため、問題になっているのです。
動脈硬化を進める仕組は次のとおりです。まず、内臓の脂肪がたまりすぎると、アンジオテンシノーゲンという物質が分泌されて、血圧を押し上げます。
また、アディポネクチンは、間接的に血糖値を下げる働きがある物質ですが、内臓脂肪が多すぎると、血中アディポネクチン濃度が下がります。つまり血糖値を上げて、糖尿病を悪化させやすいのです。アディポネクチンには血管内壁の働きを維持する効果もあるため、血中濃度が下がると、血管も傷つきやすくなり、動脈硬化の原因になります。
そのうえ内臓脂肪が多過ぎると、血中のブドウ糖を細胞内に取り込みにくくなり、血糖値や血中脂質を増やす原因になります。糖尿病や脂質異常症を悪化させやすく、動脈硬化を進行させるというわけです。

●メタボリックシンドロームの診断基準
【仕組】心筋梗塞と狭心症の関係は?

狭心症から心筋梗塞になるのは50%

心筋梗塞は、心臓を動かす冠動脈が突然、完全に詰まる病気ですが、狭心症は、冠動脈が狭くなり、血液の流れが悪くなる病気です。どちらも血液とともに運ばれる酸素と栄養が滞り、酸欠、栄養不足の「虚血」状態に陥るため、「虚血性心疾患」とも呼ばれています。
一昔前は、この狭心症から心筋梗塞になる、と考えられていました。血液の流れが「悪くなる状態」から、動脈硬化が進んで、完全に「詰まった状態」に進行する、と考えられていたのです。
しかし、最近では、心筋梗塞のうち狭心症から進行したのは、50%に満たないことが明らかになっています。残りの50%超は、狭心症の症状はまったくなく、突然心筋梗塞の発作をおこしているのです。「狭心症ではないから大丈夫」と思わずに、心筋梗塞のリスクが多い人(詳しくは「1.【症状】強い胸痛があった。これって心筋梗塞?」の「心筋梗塞の危険因子」参照)は、あらかじめ検査を受けておくとよいでしょう。
なお、狭心症の発作は心筋梗塞の発作とは異なり、一般に数分から15分ぐらいで自然に治まります。また、心筋梗塞ではすぐに救急車を呼んで、詰まった血管を開通させなくてはなりませんが、狭心症は流れが悪くなっているだけなので、ニトログリセリンなどの薬物療法と生活療法で、普段の生活を送りながら治療することができます。

【症状】強い胸痛があった。これって心筋梗塞?

心筋梗塞の可能性が高い。すぐに救急車を呼ぶ

20分以上、冷や汗が出て、胸の中心にしめつけられるような痛みがあった場合、あるいはみぞおちのあたりが猛烈に痛んだ場合、「心筋梗塞」を発症した恐れがあります。心筋梗塞の発作があったとき、体内では次のようなことがおこっています。心臓に栄養や酸素を供給している冠動脈内のプラーク(隆起)の被膜が突然破れて、そこに血栓が作られ、完全に冠動脈が閉塞し、心筋の壊死が始まっているのです。閉塞した冠動脈の先の心筋がすべて壊死すると、心臓のポンプ機能が低下してショック状態になったり、「心室細動」という重症な不整脈に陥ります。そうなる前に、救急車を呼ばなくてはなりません。
理由は、発作をおこしてから90分以内に専門病院で再灌流(さいかんりゅう)療法を受けることが、救命率を飛躍的に上げるからです。救急医療の現場では、これを「ゴールデンタイム」と呼び、最も重要視しているほどです。
激しい痛みを胸のまん中あたりに感じたら、もしくは家族がそのように訴えたら、たとえ夜中であっても、躊躇しないで救急車を呼びましょう。

心筋梗塞の前ぶれ

心筋梗塞の前ぶれとして、胸がなんとなく苦しい、圧迫感がある、違和感がある、などの症状があります。一時的なものなので、この段階で病院に行く人は少ないかもしれませんが、次のような危険因子をもっている人は、心筋梗塞をおこすリスクが高いため、受診することをおすすめします。

心筋梗塞の危険因子
  • 加齢(年齢を重ねるごとにリスクが高まります)
  • 肥満(メタボリックシンドローム)
  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 糖尿病
  • 喫煙
  • 強いストレス
  • 慢性腎臓病
【対処法】救急車の呼び方と、来るまでの対処法は?

名前や住所を伝え、楽な姿勢で待つ

発作をおこしたときは119番に連絡して救急車を呼びます。
救急車を待つ間は、ボタンやベルトなどを外して衣類をゆるめ、楽な姿勢をとりましょう。
しゃがむと心臓に負担をかけるので、横になるか、体を立てたほうが楽な場合は、イスや壁などによりかかります。一人の場合は、救急隊員がスムーズに入れるように、玄関の鍵などを開けておきましょう。

重症になると、意識を失うことも少なくありません。発作をおこした人の呼吸と脈を見て、脈がない場合は、胸部を数度、強めにたたきます。これで脈が回復しなければ、救急車が到着するまで心肺蘇生法(詳しくは「6.【発作時の対応】心肺蘇生法は覚えておいたほうがいい?」)を続けます。
救急隊員が到着したら、発作がおきた時間、そのときの状態などを聞かれるので、それに答え、指示に従います。救急隊員は、ICU(集中治療室)やCCU(冠動脈疾患集中治療室)がある病院に連絡してから、受入可能な病院に搬送します。

119番のかけ方
  1. 1.119番は固定電話でも携帯電話でもかけられます(公衆電話からの通話は無料)。
  2. 2.病人の状態や名前、住所など、必要なことは救急隊員のほうから聞かれるので、それに一つずつ答えます。場所がわかりにくいときは、目印になる建物なども伝えます。
  3. 3.電話で救急隊員から「救急処置法」を指示されたら、そのとおりに行います。
【対処法】心筋梗塞をおこしやすい「魔の時間帯」って?

午前9時~10時と、午後7時~10時といわれる

いつ、どこで発作をおこすかわからないのが心筋梗塞ですが、そうはいっても「発作をおこしやすい魔の時間帯」というのがあります。それが午前9時~10時と午後7時~10時です。
実際に心筋梗塞で倒れて、病院に担ぎ込まれた患者だけでなく、24時間ホルター心電図検査でもこの時間帯が危ないことがわかっています。
午前9時~10時は、就寝中水分をとっていないため、血液の粘度が上がりやすく、かつ通勤や仕事で緊張を強いられ始めるため、発作をおこしやすいと考えられます。また、副交感神経が優位の休息タイムから、交感神経が優位の活動タイムに急に切り替わることも、関係しているようです。
午後7時~10時に発作が多いのは、1日の疲れが一度に出るころで、かつ入浴や飲酒、食事などで、血圧が変動しやすいからです。
なお「魔の時間帯」でなくても、心筋梗塞がおこらないわけではありません。心筋梗塞が疑われれば、どんなときでも救急車をすぐに呼ぶことだけは忘れないようにしましょう。

●1日のうち発作をおこしやすい時間帯
【最近の傾向】虚血性心疾患で亡くなる人が増えている?

急性心筋梗塞を含む心疾患の死亡率はがんに次いで2位

日本では、心筋梗塞や狭心症に代表される「虚血性心疾患」で亡くなる人が増えています。
「日本人の主な死因別、年次死亡率(肺炎を除く)」を見てみると、1985年から「心疾患」が、「脳血管疾患」を抜いて第2位になっています。「心疾患」とは心臓の病気で、虚血性心疾患に、不整脈、心不全なども含まれます。ただし、心疾患の70%ちかくは虚血性心疾患です。

虚血性心疾患が増えたとはいっても、日本は現在でも、先進国の中では際立って虚血性心疾患の死亡率が低い国です。ただし、アメリカ、イギリスでは、国をあげての健康対策が奏功して、心筋梗塞の死亡率が減少していますが、日本では逆に増加しています。
食の欧米化などによって、低かった日本人のコレステロール値が、アメリカ人のそれに近づいているという報告もあります。また、日本では、肥満、脂質異常、糖尿病、高血圧が増えていることから、さらに虚血性心疾患を発症する確率は高くなるだろうという指摘もあります。日本人も早急に生活習慣を見直す必要がありそうです。

最近では、次のような傾向も見られます。虚血性心疾患の病態がかなり進み、心臓の収縮能力や拡張能力の低下による「心不全」で、死亡する人が増えているのです。この場合、臓器うっ血や呼吸困難を起こして、救急入院することになります。特にわが国は高齢者がこの先増え続けるので、ICUやCCUで専門医が対応できる限界を超えてしまうのではないか、と憂慮されています。

●日本人の主な死因別、年次死亡率 出典:厚生労働省「平成28年人口動態統計」 ※1995年に死亡診断書の書き方が変わったため、統計上は、「心疾患」がいったん低下したが、それ以降はまた死亡者が増えている。
【危険因子】心筋梗塞をおこしやすい人とは?

50代以降の男性に多く、高血圧の人や喫煙者にも

動脈硬化が静かに進行して、心筋梗塞をおこしやすい状態であっても、自覚症状がまったくないことは、よくあることです。心筋梗塞の発作は50代~70代の人に多く見られますが、最近では30代~40代で倒れる人も増えています。また、女性よりも男性のほうが心筋梗塞のリスクは高く、女性でも閉経後は危険度が上がります。自分が心筋梗塞をおこしやすいタイプかどうか、ここでチェックしてみましょう。

●チェックしてみよう

「リスク減らし」が最良の予防法

ここであげた1~8までのリスクを減らすことは、心筋梗塞の最良の予防法でもあります。
内臓肥満型、高血圧、脂質異常症、糖尿病の人とその予備群は、まず、これらの病気を治療することが欠かせません。そのうえで、禁煙、適度な運動、ストレスの軽減を心がけましょう。また、5. 再発するのが怖い! 日常生活の注意点は、一度も発作をおこしたことがない人の予防にも有効です。ぜひ、参考にしてみてください。

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