心疾患よくわかる 心筋梗塞Q&A

心疾患

よくわかる 心筋梗塞Q&A

<提供> 株式会社保健同人社
<監修> 小船井 良夫先生:榊原記念病院名誉院長

3. 合併症と後遺症があってつらい! その種類と対処法 3. 合併症と後遺症があってつらい!
その種類と対処法

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【種類】心筋梗塞の合併症にはどんなものがある?

心室細動などの不整脈がおこることも

心筋梗塞の合併症は、早い時期に発症するケースが多く、特に心室細動(さいどう)は病院に搬送される前におきて、死を招く確率の高い危険な合併症です。そのため、心筋梗塞の救急治療では、心筋の壊死を食い止めるとともに、合併症にも留意した治療が行われます。

●代表的な合併症

●代表的な合併症
種類 特徴
心室細動
房室ブロック
心房細動
心不全
心破裂
血栓の形成
瘢痕組織の形成
心室瘤
*1 3.【主な合併症】合併症の中で一番怖い心室細動って? *2 3.【主な合併症】不整脈「房室ブロック」の危険度は? *3 3.【主な合併症】「心不全」とは、どういう合併症? *4 3.【主な合併症】「心破裂」とは、どういう合併症? *5 3.【主な合併症】そのほかにも合併症がある?
【主な合併症】合併症の中で一番怖い心室細動って?

初期の死亡原因のほとんどを占める不整脈のこと

心筋梗塞の合併症として最も怖いのが「心室細動」です。心筋梗塞の発作とともにおこるこの心室細動が、病院に搬送される前に死亡する原因のほとんどを占めていると考えられています。また、重症の心筋梗塞はもちろん、心筋梗塞の程度は軽くても、心室細動をおこす確率は決して少なくないところが問題です。
心室細動は、心臓の規則的な動きが乱れる「不整脈」の一種です。心臓がけいれんしているように小刻みに震えて、正常な心臓の収縮を妨げ、それによって全身への血液循環が阻害されます。小刻みに震える理由は、心筋梗塞によって心筋が壊死することで、心臓の動きをコントロールしている電気信号に、混乱が生じるためです。
恐ろしい合併症ではありますが、原因が電気信号の混乱にあるだけに、除細動器(じょさいどうき)で電気ショックを与えれば、「心室細動」そのものは正常に戻すことができます。
2004年7月からは、一般人でも「AED(自動体外式除細動器)」を使えるようになりました。発作で倒れたら、救急車を待つ間、これを使って救命するのが一番よい方法です(詳しくは「6.【発作時の対応】心肺蘇生法は覚えておいたほうがいい?」「6.【発作時の対応】AEDの講習も受けたほうがいい?」)。

【主な合併症】不整脈「房室ブロック」の危険度は?

発症の頻度は低いが、心不全をおこすことも

最も危険な「心室細動」(詳しくは「3.【主な合併症】合併症の中で一番怖い心室細動って?」)のほかにも注意しなければならない不整脈があります。それが「房室ブロック」です。
「房室ブロック」は、脈が遅くなる不整脈で、頻度は高くないものの、命にかかわる心不全を引きおこす場合があります。心臓の拍動を制御しているのは心筋に伝わる電気信号ですが、房室ブロックになると、その電気信号が心室に伝わりにくい、あるいは途絶えてしまうことがあります。軽い房室ブロックなら問題ありませんが、重いタイプだと、心臓の拍動が著しく遅くなり、血流量が少なくなって、心不全をおこしやすくなるのです。
電気信号の通り道は、冠動脈の血液が運ぶ酸素や栄養素によって養われているため、心筋梗塞で冠動脈が詰まり、酸素や栄養素を運べなくなると、合併しておこりやすくなります。
治療法は「再灌流療法」(詳しくは「2.【治療全般】心筋梗塞で倒れたときの治療法は?」)で、多くの場合は、冠動脈の流れをよくすれば、房室ブロックも自然に治ります。ただし、電気によって拍動をコントロールする装置であるペースメーカーを胸部の皮膚下に埋め込まなくてはいけないケースもあります。

脳梗塞を招く「心房細動」

「心房細動」という不整脈も、心筋梗塞の合併症として発症する場合があります。心筋梗塞によって電気信号が乱れると、心房の収縮が十分できなくなり、心房内の血液がよどんで、そこに血栓ができやすくなります。この血栓が脳にとんで、脳梗塞を発症するケースがあるのです。治療法は、電気的除細動を使い、必要に応じて、電気的信号の働きをよくする薬剤と血栓を作らないようにする抗凝固療法を行います。

【主な合併症】「心不全」とは、どういう合併症?

心臓の収縮力が弱まり、血液の循環が悪化

冠動脈が完全に詰まって心筋梗塞をおこすと、それによって養われていた心筋が十分に収縮できなくなり、血液を送り出す力は急激に落ちていきます。このポンプ失調に陥った状態を「心不全」といいます。血液をほとんど送り出せない状態が続けば、死に至ります。
最良の治療法は、詰まった血管に血流を戻すことですが、再灌流療法(詳しくは「2.【治療全般】心筋梗塞で倒れたときの治療法は?」)でいち早く血流を再開しても、一度ポンプ失調に陥り、収縮力の落ちた心筋は、回復までに数日かかります。その間も心臓は全身に血液を送らなければなりません。
そこで、筋肉がしっかり働くように、強心剤などを点滴して、血液の循環を促します。心不全の程度が重く、それだけでは血液が十分に回らない場合は、大動脈内バルンパンピング(IABP)か、経皮的心肺補助装置(PCPS)を使って、心臓の働きを補います。

●2種類の心臓補助循環装置の特徴

●2種類の心臓補助循環装置の特徴
  大動脈内
バルンパンピング(IABP)
経皮的心肺補助装置
(PCPS)
方法 バルン(風船)をつけたカテーテルを太ももの付け根にある動脈に入れて、心臓の裏にある大動脈まで到達させる。心臓の鼓動に合わせて、体外駆動装置でバルンを膨らませたりしぼませて、心臓の働きを助ける。 カテーテルを太ももの付け根にある動脈と静脈に挿入し、静脈の血液を体外装置に導き、酸素をたっぷり含んだ血液に変換してから、ふたたび動脈に戻す。
効果 心臓の働きを数割補うことができる。 IABPより強力な補助機。心停止でも、全身に血液を循環させることができる。
使用可能期間 約1週間
リスク 動脈損傷、血行障害、出血、感染
【主な合併症】「心破裂」とは、どういう合併症?

まれにおこる、救命が困難な合併症

心筋梗塞によって壊死した心筋が広範囲になると、心臓の壁は弱くなります。そのため、まれに心臓が血液を送り出す圧力で、その壁が破裂することがあります。これを「心破裂」と呼び、三つのタイプに分けられます。いったん心破裂に陥ると、どのタイプでも急死することが多くなりますが、緊急手術で一命を取り留めるケースもあります。「心破裂」がおきやすいのは心筋梗塞発作の1日~10日後で、女性に多いといわれています。

●三つの心破裂の特徴

  症状 治療法
自由壁
心破裂
自由壁とは、心室中隔を除く左心室の壁のこと。自由壁が破裂すると、心臓を取り巻く袋の中に血液がたまり、心臓を圧迫する。 血液を吸い出し、心臓の圧迫を取り除く。さらに破れた部分を縫い合わせるなどして止血する。
心室中
隔破裂
心室中隔とは、右心室と左心室を隔てる壁。ここが破裂すると圧力の高い左心室から右心室に血液が流れ込み、重い心不全をおこす。 心室中隔の穴をふさぐ手術を行う。
乳頭筋
断裂
乳頭筋とは左心室の僧帽(そうぼう)弁を支えている筋肉。乳頭筋が断裂すると、僧帽弁が機能を果たさなくなり、左心室から左心房に血液が逆流する。 僧帽弁の修復手術を行う。

●三つの心破裂の特徴

●心臓の内部構造

●心臓の内部構造 ●心臓の内部構造
【主な合併症】そのほかにも合併症がある?

血栓や瘢痕組織の形成、心室瘤などがある

●その他の心筋梗塞の合併症

  症状 治療法
血栓の形成 冠動脈にできた血栓が流れ出し、体中いろいろなところに移動して、細い血管を詰まらせる場合がある。 抗凝固薬を使って、血栓の形成を防ぐ。
瘢痕(はんこん)組織の形成 発作によってダメージを受けた心筋細胞は、収縮できない線維性瘢痕組織に置き換わることがある。瘢痕部分が多いと、心臓の機能が落ちる。 β遮断薬、ACE阻害薬など血圧を下げる薬を用いて、心臓の負担を軽くする。
心室瘤(りゅう) 心室瘤は、心筋梗塞によって壊死した心筋が変性してできる瘤。心室瘤が原因で、不整脈、心不全を引きおこしたり、血栓が飛んで脳梗塞をおこすことがある。 不整脈、心不全を招いたら、手術で心室瘤を取り除く。そのうえで、心不全の治療と、抗凝固薬を処方する。
●その他の心筋梗塞の合併症
【主な後遺症】心筋梗塞にも脳卒中のような後遺症がある?

抑うつ症状が見られることが多い

心筋梗塞によって心筋の一部が壊死して、心臓の機能が低下しているため、疲れやすい、体力がない、無理がきかなくなった、などの後遺症はよく見られます。心筋梗塞による一時的な脳機能低下による、ふらつき、めまい、立ちくらみなどがおこるケースもあります。
また、大変多いのが「抑うつ症状」です。心筋梗塞をおこした患者の4割強には抑うつ状態が見られるといわれるほどです。再発の不安、体力に自信がもてない、一生続く食事制限の苦しさなどからおこると考えられています。
しかし、これらの肉体的、精神的後遺症も、心臓リハビリテーション(詳しくは「4.【目的】心臓リハビリテーションをするのは何のため?」)によって、少しずつ回復させることができます。あせらず、ゆったりとした気持ちで克服することが大切です。
心筋梗塞では、病気のコントロールさえよければ、長寿をまっとうすることも可能です。

●心筋梗塞患者の抑うつ状態

●心筋梗塞患者の抑うつ状態 ●心筋梗塞患者の抑うつ状態 出典:大阪急性冠症候群研究会

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