
![[専門医解説] マリヤ・クリニック 院長 柏崎 良子(かしわざき りょうこ)先生](images/201606-column-title-sp.png)
身体的な症状としては頭痛やふらつき、動悸、手足のふるえ、異常な発汗(冷や汗)、慢性的な疲労や思考力の低下、湿疹やアレルギー、関節炎、目のかすみ、筋肉痛などが挙げられます。体全体の血糖のうち20~30%が脳で消費されます、そのため血糖が下がると、感情や精神面に不調が出やすいのも特徴。症状としては、攻撃的衝動やうつ傾向、判断力の低下、怒りやいらだちなどの感情を抑えられない、日中の眠け、ヒキコモリ(無気力)などが挙げられます。
低血糖状態になると、脳の血流が悪くなり、眠くなったり、理性を司る大脳皮質の働きに影響が出て、抑制力や判断力が鈍ったりします。その一方で、「なんとか血糖を上げよう」と、摂食中枢を刺激したり、興奮系の神経伝達物質であるアドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどを分泌したりします。これらが脳全体の機能バランスを悪化させ、その結果、怒りや敵意、焦燥感、落ち込みなどを引き起こします。
これまでは、血糖値を下げる薬による副作用として低血糖症になることがあり、しばしば問題視されてきていました。しかし、近年は糖質の過剰摂取や極端な摂取制限による影響が見受けられるようになってきています。たとえば、血中のブドウ糖濃度を安定化させるホルモンのインスリンは膵臓で分泌されていますが、炭水化物に砂糖で甘い味をつけた、ケーキや菓子パンなどを一度に大量に食べる習慣があると、その膵臓が疲れきってインスリンの分泌量を制御できなくなって大量分泌し、必要以上に血糖値を下げてしまうことがあるのです。
また、アレルギーや胃下垂、貧血、甲状腺機能障害などの病気や体質との関係も指摘されており、注意が必要です。たとえば、胃腸が弱いために、食事量を人並みに摂っていても腸で必要量が消化吸収できていなかったり、体内に取り込めていても、ビタミンやミネラルなどが不足しているため体内でうまくエネルギー化できなかったりして、結果として「糖質(エネルギーの材料)が足りない」状態になるのです。
基本的に子どもから高齢者まで、あらゆる世代の男女とも低血糖症になる可能性があります。その中で目立つのは、ダイエットを繰り返しているうちに、膵臓が疲弊してインスリンをうまくコントロールできなくなるという、若い女性などに多いパターンです。健康な人が「炭水化物ヌキ」といった極端なダイエットを自己流で行った場合、目標体重をクリアして普通の食事にもどると、急激に摂り込まれた糖質により、インスリンの分泌量のコントロールが効かなくなることがあります。すると血糖値が安定しなくなり、精神的にも不安定になりがちです。
また、働き盛りの男性なども要注意。残業が増え、夕食が9~10時になるような生活を長く続けることは、肥満の原因になり健康によくありません。しかし、仕事で過剰に分泌されたアドレナリンの影響で「体調も気分も良い」「自分は効率良く働けている」と感じてしまい、そんな体のSOSに気づかない人も多いようです。これを放っておくと、血糖値を調整する膵臓や副腎が疲労し、血糖調節機能が低下し、低血糖症を発症し、うつ症状が出たり、ささいなことでキレやすくなる、会議中に眠くなるなど、仕事に支障が出ることがあります。
ちなみに、このような症状が出たとき、「精神科や心療内科を受診するべき」と考える人が多いと思いますが、大元の原因である低血糖症を治さないと、抗うつ剤の処方を受けても症状は改善に向かいにくいのです。
「低血糖症と精神疾患治療の手引」より、抜粋改変。
チェックが多い人ほど、低血糖症が原因の精神症状が出ている可能性が強いので、まずは食事と栄養を見直してくれる、管理栄養士が在籍している内科や内分泌代謝科などの専門医に診てもらうことをオススメします。