ここ数年、「老後破産」「老後貧乏」という言葉がよく話題にのぼります。老後の生活が困窮するリスクは、実は誰にでもあります。9,000人以上の家計再生実績を持つ、家計再生コンサルタントの横山光昭さんに、よくある「老後破産」予備軍の事例を挙げていただきました。
※事例は特定の個人のものではなく、横山さんに寄せられた複数の家計相談事例を基に構成したものです

●子供にあれこれ資金援助をして、老後資金4,000万円が1,000万円に激減
Aさん夫婦は年金暮らしですが、自営業なので今も働いて収入を得ており、本来なら貯蓄もできる経済環境です。ところが4,000万円あった老後資金が1,000万円まで激減し、さすがに危機感を覚え始めました。
原因は30代の2人の子供。長男は海外留学から帰国して就職活動中。収入がないため、生活費はAさんの負担です。近所に嫁いだ長女は3人の孫を連れてよく実家に出入りし、夕食をとることもしばしば。食費がかさみます。さらに長女と孫の外食費や洋服代も、Aさんの妻がいつも支払っています。


●共働きで悠々自適の老後のはずが、夫婦ダブルで親の金銭負担が発生して生活苦に
Bさん夫婦は共働き。晩婚で子供はおらず、住まいは少々高額な物件を購入したため、住宅ローンの負担は重く、世帯年収の割に貯蓄は少なめです。それでも「2人分の厚生年金があるから老後は悠々自適」のはずでした。
ところが最近、Bさんの父親が借金を残して他界。一人息子で連帯保証人のBさんが返済し、貯蓄はほとんどなくなりました。もともとBさんの妻も一人娘の責任で、実母に仕送りをしていたところに、この借金返済が重なり、Bさん夫婦は老後生活を目前に、思いもよらず生活が苦しくなってしまったのです。


●初めての投資で焦って失敗を重ね、大事な退職金2,500万円が半分に……

定年を迎えて退職金を2,500万円もらったCさん。これまでお金の管理は妻がしてきましたが、「退職金は俺に任せろ。うまく運用して増やしてやる」と、夫の威厳を保つためか投資経験もないのに自信満々に宣言。金融機関から勧められた商品に退職金の全額をつぎ込みました。
しかし運用はうまくいかず、値下がりして元本割れに。焦ったCさんは「損した分を早く挽回しなければ」と別のハイリスクな商品に手を出し、傷は深まるばかり。気が付いたときには、老後の生活費でもある大事な退職金が半減していました……。

●老後は長男一家と楽しく暮らすはずが、長男の病気で暗転。住宅ローンを肩代わり
老後は長男一家と暮らそうと、50代後半で住まいを二世帯住宅に建て替えたDさん。Dさんが老後のために貯めていたお金の一部を頭金に充て、長男が住宅ローンを組んで建替資金を賄いました。
しかし3年後に長男が病気になり、住宅ローンの返済が困難に。返済資金を捻出するために1階か2階を賃貸しようとしても、室内がつながっている構造上、貸せません。やむなくDさんが息子のローンを肩代わりすることに。老後の資金計画が大きく狂ってしまいました。


●妻に家と財産の半分を渡したうえに、「退職金が少なく、家計は赤字」で八方ふさがり
一流企業に勤務し、仕事一筋だったEさん。子供が独立し、定年まであと2年というときに、妻から突然離婚を切り出されました。離婚時に家と財産の半分を妻に渡しましたが、老後は退職金と残りの年金があれば賄えると楽観していたEさん。
ところが退職金が想定外に少なく、住宅ローンを完済すると残りは500万円。安心とはいえない金額なのに家計は毎月赤字。Eさんは料理が苦手で外食費などがかさむうえ、交友関係の乏しさから、週1回、現役時代から行きつけのクラブに通っているためです。このままではお金が底をつくのは時間の問題です。


5つの事例は、現役世代でも老後が視野に入ってきた50代の方たちには、リアルに迫ってきたのではないでしょうか。特にケース1~3に挙げた「成人した子供にいつまでもお金がかかる」「老親にお金がかかる」「退職金で投資に失敗する」は、多くの人にとって身近なリスクです。「老後破産の入口はあなたのすぐそばにあるのです」(横山さん)。
30~40代の方たちには「まだ先の話」と映ったかもしれません。けれども実は、現役時代のお金との付き合い方次第で、老後破産のリスクは大きくも小さくもなるのです。知らず知らずのうちに老後破産するリスクを大きくしていないか、下のリストでチェックしましょう。

該当項目はいくつありましたか? 3つ以上あったら要注意です。早速、次に紹介する対策を講じるなど、ライフプランニングを見直しましょう。


老後破産対策といっても、特別なことをするわけではありません。今の家計を把握して、貯蓄や投資によりコツコツ資産形成をしながら適宜見直しを行い、様々なライフプランをクリアしていく。その延長線上に老後の暮らしがあると考えて行動すればいいでしょう。


老後資金づくりも含めて、ライフプランを立てるには、家計と資産、保障の現状把握が必要です。1カ月の収入と支出、商品別(預金、債券、株式など)の資産残高、住宅ローンなどの負債の内容、生命保険で確保している保障の内容を把握しましょう。そして見直すべき点があれば見直しを。特に生命保険はライフステージの変化に応じて、適宜見直しましょう。


老後の生活費を年金と退職金だけで賄うのはまず無理。自助努力が必要です。老後はどのように暮らしたいかライフプランニングを行い、年金の見込額や退職金の目安を確認のうえ、自分で準備する金額の見当をつけましょう。インフレなどにも対応するには、預貯金だけではなく投資商品を組み合わせるのも選択肢です。投資は失敗も勉強。できるだけ早いうちから始めるといいでしょう。預貯金だけの場合より資産が増える可能性が高まりますし、大事な退職金を半減させてしまうような取り返しのつかない失敗(ケース3)も防げます。


夫婦のコミュニケーションがうまく取れていないと、お金の管理や資産形成に問題が生じます。「多忙でも1日に15分は会話をするなどして、普段の家計管理から老後資金の作り方、定年後の暮らし方まで、価値観を共有するように心がけてください」(横山さん)。ケース5で挙げた熟年離婚のリスクも大きく低減するはずです。
また、ケース1やケース2の事態を避けるために、ある程度の年齢になったら、成人した子供や夫婦のお互いの老親にどこまで援助するのか、方針を決めましょう。「老親への援助や介護については兄弟姉妹とも話し合っておくことを勧めます」(横山さん)。


意外かもしれませんが、「世帯年収が800万円を超えると、身の丈以上に生活レベルを上げてしまい、貯蓄が全くできなくなるお宅が増えます」(横山さん)。高額な住まいを購入して多額な住宅ローンを組んだり(ケース2もそう)、外車を買ったり、子供を小学校~中学校から私立に通わせたりするのがよくある例です。一度生活レベルを上げるとなかなか下げられないもの。先々につらい思いをしないように、きちんと貯蓄を確保したうえで、生活費、住居費、教育費の割り振りを考えましょう。


資産形成だけでなく、地域や趣味などを通じて交友関係を広げておくことも老後への一つの投資。目先は交際費が増えるかもしれませんが、例えば定年後にちょっとした仕事を紹介してもらえるということも考えられます。何より、困ったときに助け合いができる人間関係があれば心強いでしょう。

「子供の教育費は聖域になりがちですが、特に晩産のお宅は注意。幼少期は本来であれば教育費の貯めどきです。けれども親の年齢が40代後半~50代前半ぐらいだと、年収がピークに達して暮らしにゆとりがあるため、幼児教育などにお金をかけてすぎてしまう傾向があります」(横山さん)。子供に本格的に教育費がかかる高校、大学のときには、親は定年退職前後で収入は激減。無計画にお金をかけていた家庭は老後の生活にしわ寄せがきます。教育費は老後資金とのバランスをとりながら計画的にかけましょう。
