
長年放置している預金がある人は要注意。「休眠預金等活用法」という法律により、2019年1月1日以降に「休眠預金」となり、場合によっては預金保険機構に移管されることになりました。どのような預金が休眠預金となり、それを防ぐには何をすればよいのか、ファイナンシャルプランナーの深野康彦さんに教えていただきました。
子どもの頃に親が作っていた口座、学生時代や独身時代、転勤先で作った口座などにより、知らず知らずのうちに預金口座は増えてしまいがち。中には何年も使っていない口座があるという人も少なくないでしょう。こうした口座の預金を休眠預金といいますが、これまで休眠預金として扱われる定義は最後の取り引きから5年だったり10年だったりと金融機関によりまちまちでした。
「それが2018年1月施行の『休眠預金等活用法』という法律により統一され、10年以上、入出金等の取り引きがなく放置された預金等を『休眠預金等』(以下、休眠預金)と定めることになったのです」(深野さん)。この法律による休眠預金が2019年1月1日から発生します(詳細は次項のQ1参照)。
実は10年以上放置された休眠預金は毎年1,200億円程度も発生しています(2014年~2016年)。そのうち500億円程度は預金者に払い戻されているので、実質的には700億円程度ですが、多額であることに変わりはありません(*1)。これを社会のために広く役立てられるようにしたのが、今回の休眠預金等活用法です。
*1「『民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律』説明資料」(2018年 内閣府・金融庁)より
図表1 休眠預金の活用先は?

つまり、これまでは銀行などの金融機関が管理していた休眠預金を国がまとめて管理し、有効活用する仕組みが作られたということになります。民間団体への助成等が行われるのは、2019年秋以降の予定です。
「ただし預金は個人の私有財産。個人の財産権が侵害されないように、預金者に払い戻される仕組みを作ったうえで、休眠預金を活用するという工程になっています」(深野さん)。
休眠預金等活用法が財産権を侵害しない仕組みになっているとはいえ、自分の預金がどうなるのか不安と疑問がわくのではないでしょうか。押さえておきたいポイントをQ&A形式で紹介します。
前述の通り10年以上、入出金等の取り引きがない預金が休眠預金となります。「休眠預金等活用法では入出金等の取り引きを『異動』と呼びます。2009年1月1日以降に最後の異動があった預金が対象になるので、その10年後となる2019年1月1日から休眠預金が発生することになるわけです」(深野さん)。
異動には国が定める全金融機関共通のものと、各金融機関が認可を受けて定めているものがあります。全金融機関に共通するものは入出金です。どこの金融機関でも入出金をすれば異動となり、その先10年間は休眠預金になることを防げます。
図表2 各金融機関が認可を受けて異動とするものの例

*2 預金保険・貯金保険とは、金融機関等が預金等の払い戻しができなくなった場合等に、預金(貯金)者等を保護し、また資金決済の確保を図ることによって、信用秩序の維持に資することを目的とする制度です。
図表3 休眠預金の対象になる預金、ならない預金(主なもの)
| 対象になる | 対象にならない |
|---|---|
| 普通預金、通常貯金 | 外貨預貯金 |
| 定期預貯金、定額貯金、定期積金 | 仕組預貯金 |
| 当座預貯金 | 財形貯蓄 |
| 貯蓄預貯金 | 郵政民営化以前(2007年9月30日以前) に郵便局に預けられた定期制の郵便預金 |
定期預金を自動継続にしていると、自動継続することが異動(取り引き)の一つとなり、休眠預金にならないのではないかと考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。 「自動継続の定期預金の場合、その定期預金の最初の満期日が10年間をカウントする起点となります。例えば1年定期を自動継続する場合、定期預金を始めて1年経過した最初の満期日が起点となり、そこから10年以上何も異動がないと休眠預金になります」(深野さん)。
定期預金の自動継続で特に注意したいのが証書式(預金証書)の場合です。「金融機関によりますが、通帳式の定期預金であればATMで記帳や残高照会をすれば異動となり、休眠預金化を防げる場合があります。一方、証書式の場合はATMでの記帳や残高照会ができないため、通帳式に比べると休眠預金になりやすく要注意です」。
ただし通知されるのは預金残高が1万円以上の場合。1万円未満だと通知は発送されません。残高が1万円以上でも、金融機関に届け出をしている住所が現住所と異なると通知が届かず、休眠預金になるおそれがあります。
図表4 休眠預金になるまでの流れ

ここまで読んできて、簡単には休眠預金にならないこと、仮に休眠預金になって預金保険機構に移管されても、お金は戻ってくることが理解できたかと思います。「だからといって、使っていない口座を放置しておくのは家計管理上、問題です。これを機に預金口座の棚卸しをした上で、不要な預金口座は解約して整理することをお勧めします」(深野さん)。
手順は図表5の通り。「まずは全ての通帳を用意して、どこの金融機関に口座があるのか確認しましょう」。その際、届け出住所が現状のものかもチェックしてください。「通帳が揃ったら、各金融機関のATMで記帳して残高を確認。長い間取り引きがなかったため通帳記帳ができない場合や、現在の生活圏に支店がなく記帳が難しい場合には、該当の金融機関に残高確認の方法を問い合わせましょう」。
残高が1万円未満の場合、Q5で触れたように通知が来ないので、何らかの異動のアクションを起こす必要があります。「通帳記帳や残高照会が異動に該当するなら、上記の確認作業を通じてアクションを起こしたことになります」。
「こうして預金口座の棚卸しができたら、今後も使う口座と、もう使わない口座に仕分けして後者は解約の手続をとってください」。これで整理完了です。
図表5 預金口座の棚卸しと整理の手順
整理完了!

金融機関が破綻した場合のペイオフ(*3)に備え、預金口座をいろんな金融機関に分散している人もいるでしょう。「現状は破綻を心配する必要はあまりありません。ですが口座を整理すると1つの金融機関に預ける預金額が1,000万円を超えてしまい不安だという人は決済用預金を利用するとよいでしょう。決済用預金には利息が付きませんが、金融機関が破綻した場合でも預金が全額保証されます」。
*3 金融機関が破綻した場合、1金融機関について預金者1人あたり元本1,000万円+その利息の範囲で預金が保証されること。

図表6 都市銀行の提携・合併の推移
| 銀行名 | 旧銀行名(提携・合併元) |
|---|---|
| みずほ銀行 | 第一勧業銀行 / 富士銀行 |
| 三菱UFJ銀行 | 三和銀行 / 東海銀行 / 東京銀行 / 東京三菱銀行 / 三菱銀行 / 三菱東京UFJ銀行 / UFJ銀行 |
| 三井住友銀行 | さくら銀行 / 住友銀行 / 太陽神戸銀行 / 太陽神戸三井銀行 / 三井銀行 |
| りそな銀行 埼玉りそな銀行 |
あさひ銀行 / 協和銀行 / 協和埼玉銀行 / 埼玉銀行 / 大和銀行 |
※全国銀行協会Webサイトを元に作成
40~50代の人は老年に差し掛かった親の預金が休眠預金にならないか、気になるのではないでしょうか。「休眠預金の発生を防ぐには、やはり預金口座の棚卸しと整理が必要ですが高齢者には負担です。年末年始に帰省の予定がある場合、休眠預金の話をして預金口座の整理の手伝いをしてあげることをお勧めします」(深野さん)。
棚卸しと整理の方法は前述の通り。「高齢者の場合、預金口座を年金受取口座+1~2行ぐらいに絞るとよいでしょう。あちこちに預金口座が散らばっていると親御さんが管理するのが大変だということはもちろん、将来の相続する子の立場としても煩雑な手続を残すことになるからです」。
「また、休眠預金等活用法の施行を悪用した、新手の特殊詐欺が出てくる可能性もあります。親御さんに注意を促しておきましょう」(深野さん)。