2019年がスタートしました。今年も社会保障や税金などに関する制度改正が行われます。その中から家計や働き方にかかわるものをピックアップし、概要やポイントをご紹介します。社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの望月厚子さんと、税理士の望月茂さんに教えていただきました。家計管理やマネープランにお役立てください。
2019年の制度改正のうち家計や働き方に関わる主なもの
図表1 地震保険料の改定前後の比較例
地震保険金額1,000万円当たりの年間保険料例(割引適用なし)主としてコンクリート造、鉄骨造の建物の場合
都道府県 | 改定前 保険料 |
改定後 保険料 |
改定率 |
---|---|---|---|
岩手、秋田、山形、栃木、 群馬、富山、石川、福井、 長野、滋賀、鳥取、島根、 岡山、広島、山口、福岡、 佐賀、長崎、熊本、鹿児島 |
6,800円 | 7,100円 | 4.4%の 引き上げ |
北海道、青森、新潟、岐阜、 京都、兵庫、奈良 |
8,100円 | 7,800円 | 3.7%の 引き下げ |
福島 | 7,400円 | 8,500円 | 14.9%の 引き上げ (今回最大の引き上げ幅) |
宮城、山梨、香川、大分、 宮崎、沖縄 |
9,500円 | 1万700円 | 12.6%の 引き上げ |
愛媛 | 1万 2,000円 |
1万 2,000円 |
変わらず |
大阪 | 1万 3,200円 |
1万 2,600円 |
4.5%の 引き下げ |
愛知、三重、和歌山 | 1万 7,100円 |
1万 4,400円 |
15.8%の 引き下げ (今回最大の引き下げ幅) |
茨城 | 1万 3,500円 |
1万 5,500円 |
14.8%の 引き上げ |
埼玉 | 1万 5,600円 |
1万 7,800円 |
14.1%の 引き上げ |
徳島、高知 | 1万 3,500円 |
1万 5,500円 |
14.8%の 引き上げ |
千葉、東京、神奈川、静岡 | 2万 2,500円 |
2万 5,000円 |
11.1%の 引き上げ |
出典 日本損害保険協会「2019年1月 地震保険制度改定の概要」を基に作成
「改定後の保険料が適用されるのは2019年1月1日以降の契約です。既に地震保険に加入している場合、その契約の保険期間が終了して更新するときに、改定後の保険料が適用されることになります」。
もう一つ覚えておきたい改定が、保険料の割引が受けやすくなったこと。「地震保険は建物に一定の免震性能や耐震性能があると保険料の割引が受けられます。今回の改定により、確認書類の範囲が広がり割引が受けやすくなりました。加入先の保険代理店などに割引対象になるか確認してみましょう」。
なお、地震保険料は3段階で改定されることが決まっています。「今回の改定は2017年1月に実施された1回目に続く2回目の改定です。3回目の時期は未定ですが、多くの地域でさらなる引き上げが予想されます」。
遺言書の種類の一つに「自筆証書遺言」があります。2018年7月の民法改正により、この作成の方式が一部緩和されます。2019年1月13日以降に作成する自筆証書遺言に適用されます。
「改正前の自筆証書遺言は文字通り全文自書(自分で手書き)する必要がありました。自筆証書遺言は費用をかけずに手軽に作成できる遺言なのですが、全文自書は負担が大きい。遺言書を書く当人が高齢だったり、財産が多数あったりする場合はなおさらです」(望月さん)。
今回の改正では手書きによる負担を軽減するために、遺言書のうち財産目録の部分をパソコンで作成できるようになります。「不動産の登記事項証明書のコピーや預金通帳のコピーなどを添付して財産目録に替えることもできるようになります。ただし偽造やなりすましを防止するため、財産目録や通帳のコピーには1枚毎に自筆の署名・押印が必要です」。
自筆証書遺言については保管についても改正されます。これまでは自宅に保管するケースが多く、紛失や相続人による改ざんなどのおそれがありました。これが2020年7月10日に法務局で保管する制度が創設されます(詳細は未定)。「そうなると紛失等のリスクは防げるようになります。財産目録のパソコン作成と法務局での保管制度により、自筆証書遺言が従来より使いやすくなると考えられます」。
2018年1月施行の「休眠預金等活用法」という法律により、10年以上、入出金等の取引がなく放置された預金等を「休眠預金等」と定めることになりました。この法律による休眠預金が2019年1月1日から発生します。何年も使っていない預金口座を持っている人は要注意です(詳細は12月号「10年以上放置の預金に注意!休眠預金Q&A」)。
NISA口座は1人につき1金融機関にしか開設できません。例えばAさんがNISA口座を開設しようと金融機関に申し込んだ場合、申込を受けた金融機関は、Aさんが他の金融機関に二重にNISA口座を開設していないか、税務署に確認作業をする必要があります。そのため申込から口座開設まで、通常2週間程度かかります。
「これが2019年1月1日から変わります。NISA口座開設申し込み時に『非課税口座簡易開設届出書』という書類を使用すれば、金融機関は利用者から口座開設の申込を受け付けた日に口座開設をするので、2週間も待つ必要はなくなります。口座開設を金融機関の窓口で行う場合、その日から取り引きができるので、とてもスピーディーになります」(望月さん)。つみたてNISAの口座開設も同様の取り扱いとなります。
「金融機関から税務署への二重口座の確認はNISA口座の開設後に行います。もし二重口座であった場合、NISA口座で保有している商品は一般の課税口座に移管され、口座開設当初までさかのぼって課税対象になります。重複して口座開設を行わないように注意しましょう」。
パソコンを使って確定申告をするe-Tax(イータックス・電子申告)の利用手続が2019年1月から便利になります。従来は事前準備として開始届出書の提出やID・パスワードの受領、それから申告時にはICカードリーダライタが必要でした。それが簡素化され、「『マイナンバーカード方式』と『ID・パスワード方式』の2つの方法で手続できるようになります。『マイナンバーカード方式』を選ぶと、開始届出書の提出とID・パスワードの受領は不要となりますが、マイナンバーカードを取得したときのパスワードなどを使用することになります。マイナンバーカードとICカードリーダライタを用意すればe-Taxが利用できるようになります。」(望月さん)。
ただ、マイナンバーカードの普及率は全国平均で11.5%(2018年7月1日現在、総務省調べ)とまだ高くありません。マイナンバーカードを持っていない人は『ID・パスワード方式』を利用できます。「こちらはマイナンバーカードとICカードリーダライタが不要です。税務署で職員と対面して本人確認を受けるとID・パスワードが発行されるので、それを使って申告を行います」。
図表2 2019年1月以降のe-Tax利用のイメージ
従来方式(2019年1月以降も利用可) | マイナンバーカード方式 | ID・パスワード方式 | |
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事 前 準 備 |
マイナンバーカードの取得 e-Taxの開始 e-Taxの |
マイナンバーカードの取得 e-Taxの開始 e-Taxの |
マイナンバーカードの取得 e-Taxの開始 e-Taxの |
申 告 時 |
申告等データを 作成・送信 |
申告等データを 作成・送信 |
申告等データを 作成・送信 |
申 告 時 に 準 備 す る も の |
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e-Taxの利用手続が簡素化されるのに加えて、年末調整済みの給与所得者で医療費控除やふるさと納税の寄付金控除などのために確定申告をする人は、1月からスマホで申告書の作成から送信までできるようになります。源泉徴収票などの添付書類は提出不要です(自宅で保管義務があります)。
「ただしスマホで申告をするには、『ID・パスワード方式』を利用するため、税務署に出向いてID・パスワードを発行してもらう必要があります。税務署の窓口の開庁時間は通常、平日8:30~17:00なので、勤務時間と重なってしまう人が多いかと思います」。
図表3 2019年10月以降も税率8%が適用されるのは?
マイホーム 購入の契約 |
3月31日までに売買契約をすれば、譲渡・引き渡しが10月1日以降でも購入代金の税率は8%。戸建てもマンションも対象。マンションの場合、着工が10月1日以降でもOK。 |
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リフォーム工事の契約 | 3月31日までに工事の契約をすれば、実際のリフォーム工事が10月1日以降でも工事費用の税率は8%。ただし4月1日以降に追加料金が発生した場合、その部分の税率は10%になる。 |
事務所等の 賃貸契約 (住居の賃料は 非課税なので対象外) |
3月31日までに賃貸物件等の契約をして9月30日までに入居していれば、賃貸契約期間の範囲で10月1日以降も賃料の税率は8%(例えば賃貸契約が3年間であれば、3年が終了するまでは税率8%が継続)。 |
書籍等の 定期購読の 契約 |
3月31日までに書籍や雑誌などの定期購読の契約をして9月30日までに代金を一括払いしていれば、10月1日以降に届く分の税率は8%のまま。 |
通信販売 による 定期購入の 契約 |
3月31日までに通信販売の業者が販売価格等の条件を提示し、利用者が9月30日までに申し込んで代金を一括払いすると、10月1日以降に届く商品の税率は8%のまま。 |
例えばマイホームを購入予定の場合、3月31日までに売買契約をすれば、引き渡しが10月1日以降でも税率は8%のままで済みます。高額なマイホームの購入に税率の違いは大きな影響があります。「ただしマイホームについては駆け込み需要を抑えるため、税率10%への引き上げに伴って住宅ローン控除の拡充などの対策が講じられます。税率8%の期限までに契約するか否かはよく検討する必要があるでしょう」。
図表4 贈与の特例の概要
受贈者 | 30歳未満(受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、適用を受けることはできない) |
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贈与者 | 受贈者の直系尊属(父母、祖父母など) |
非課税枠 | 受贈者1人につき1,500万円(学校外の教育費は500万円まで) |
使途 | 教育資金(入学金・授業料などの学費や教育訓練給付金支給対象となる教育訓練の受講費。スポーツやお稽古ごとなど、学校外の教育費については受贈者が23歳に達した日の翌日以降に支払われるものは対象外となる)※適用は2019年7月1日以降 |
適用期間 | 2021年3月末までの贈与 |
契約終了 | 受贈者が30歳になったとき。ただしその時点で学校に在学しているか、教育訓練給付金支給対象となる教育訓練を受講している場合は、該当する期間がなかった年の12月31日または受贈者が40歳になる日のいずれか早い日に終了する |
受贈者 | 20歳以上50歳未満(受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、適用を受けることはできない) |
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贈与者 | 受贈者の直系尊属(父母、祖父母など) |
非課税枠 | 受贈者1人につき1,000万円(結婚費用は300万円まで) |
使途 | 結婚資金(挙式・結婚披露費用、新居費用など)、子育て資金(妊娠、出産及び子どもの医療費、幼稚園・保育園等の保育料やベビーシッター代など) |
適用期間 | 2021年3月末までの贈与 |
契約終了 | 受贈者が50歳になったとき。残額はその時点で贈与があったとして贈与税の課税価格に参入 |
自営業者とその配偶者(専業主婦(夫))、フリーランスなどは国民年金第1号被保険者。「第1号被保険者の人たちは、2019年4月から産前産後期間の国民年金保険料の支払が免除されるようになります」(望月さん)。
免除期間は出産予定日または出産日が属する月の前月から4カ月間。5月が出産予定日なら、前月の4月から7月まで保険料が免除されます。2019年度の国民年金保険料は1万6,410円なので、4カ月分の免除額は合計6万5,640円となります。
「免除制度の施行は4月ですが、出産日が2019年2月1日以降であれば対象になります」。気になるのは保険料免除を受けた場合に将来の年金額が減らないかということ。「通常、国民年金保険料の免除を受けると、免除期間に対応する年金給付は満額の2分の1に減ります。一方、産前産後期間の場合は保険料免除を受けても満額が保障されるので安心です。その財源として、国民年金保険料は100円程度引き上げられます」。
図表5 産前産後期間の保険料免除制度の概要
受けら れる人 |
国民年金第1号被保険者で出産日が2019年2月1日以降の人 |
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保険料 免除期間 |
出産予定日または出産日が属する月の前月から4カ月間(多胎妊娠の場合、出産予定日または出産日が属する月の3カ月前から6カ月間) |
申請期間 | 出産予定日の6カ月前から(ただし申請できるのは2019年4月1日から) |
申請書類の入手先 | 年金事務所または住所地の市(区)役所、町村役場の国民年金担当窓口 |
申請窓口 | 住所地の市(区)役所、町村役場の国民年金担当窓口 |
問い合わせ先 | 最寄りの年金事務所 |
図表6 時間外労働の上限規制の概要
原則 | 月45時間、年360時間 |
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特別な事情が ある場合 (ただし年6カ月以内) |
月100時間未満、年720時間以内、複数月平均80時間以内 |
上限規制から 除外 される 職種 (当面5年間) |
自動車運転、建設、医師等。研究開発は条件付きで適用除外 |
「働き過ぎが指摘される中、働く人にとって健康面では朗報だと思いますが、残業代込みで家計をやりくりしている場合には家計の見直しや、妻も働くなどの対策を講じる必要が出てくるでしょう」(望月さん)。
年次有給休暇については、労働者に年5日の有給休暇を取得させるよう企業に義務づけられます。「適用されるのは6カ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者なので、多くの人が該当することになります。この要件を満たすと年10日の有給休暇が付与されますが、有休取得率が低いままなのが実情です。その対策として、半分に当たる5日について、企業側が時季を指定して取得させることとなりました」。
2018年7月の民法改正により、2019年7月1日に婚姻期間20年以上の夫婦間の自宅贈与の取扱が改正・施行されます。改正前は配偶者の一方がもう一方に自宅を生前贈与または遺贈(遺言で贈与すること)した場合、原則としてその財産は遺産の先渡し(特別受益)を受けたものと取り扱われていました。
「特別受益の財産は、相続の際に相続財産に持ち戻して(加えて)遺産分割をすることになります。しかし今回の改正により、婚姻期間20年以上の夫婦間の自宅の贈与は特別受益として取り扱う必要がなくなったため、遺産分割の際に相続財産に持ち戻さなくてよくなります。そのため、遺された配偶者は改正前より多くの遺産を手にできるようになります」(望月さん)。
例で見ていきましょう。夫が妻に生前、自宅(2,000万円分)を贈与したとします。相続人は妻と長男の2人。遺産は金融資産3,000万円です。
図表7 自宅を生前贈与された妻の取り分はどう変わる?
相続財産の計算
自宅2,000万円の生前贈与は特別受益のため相続財産に持ち戻す。よって金融資産3,000万円+自宅2,000万円=5,000万円となる。
法定相続分で分割すると取り分は2分の1ずつ(2,500万円ずつ)
相続財産の計算
妻への自宅の生前贈与2,000万円は特別受益ではなくなるため、相続財産に持ち戻さない。よって金融資産は3,000万円のみ。
法定相続分で分割すると取り分は2分の1ずつ(1,500万円ずつ)
改正は遺された配偶者が自宅に住み続け、生活保障として多くの遺産を取得するための助けになるといえるでしょう。ただし以上は遺産分割という民法改正の内容。相続税法においては特定贈与財産の贈与として一定の要件を満たす夫婦間の贈与は2,000万円までは非課税です。
消費税率10%引き上げに伴う軽減税率制度導入の経過措置として、2019年9月30日までにチケット等を購入しておくとお得になるケースがあります。「航空券や鉄道の切符、映画などの前売券を9月30日までに購入しておけば、それを利用するのが10月以降でも税率は8%のままで済みます。10月以降に旅行やレジャーの予定があれば、9月末までにチケットを購入するのがお勧めです」(望月さん)。
図表8 2019年9月末までに購入するとお得なのは?
「軽減税率が適用される飲食料品とは、ざっくりいうと酒類を除く食品です。テイクアウトや出前などの宅配等も8%の対象です。一方、レストランなどでの外食やケータリング等は除外され標準税率10%の対象となります」(望月さん)。
消費税率引き上げに伴う景気対策として、キャッシュレス決済をした場合のポイント還元や、2歳以下の子供を持つ世帯などに向けた「プレミアム商品券」の導入なども検討されています。「知っているかどうかにより家計に差がつくので、関連情報に敏感になっておく必要があります」。
「購入時にかかる自動車取得税(購入価格の3%)が廃止され、『環境性能割』という燃費課税が導入されます。燃費に応じて0~3%の税金が課されますが、消費増税から1年間は税率が1%軽減されます」(望月さん)。
自動車を保有していると毎年かかる自動車税は税率が引き下げられ、最大で4,500円の減税になります(軽自動車は据え置き)。「自動車税の減税は期限を定めない恒久的なものです。これによる税収減はエコカー減税の縮小などでカバーされることになっています」。
「幼児教育無償化の財源は消費税なので、消費税率10%引き上げとともに実施されることになっています」。
図表9 幼児教育無償化の概要
子供が通う幼児教育施設 | 無償化の 範囲 |
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認 可 保 育 施 設 |
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全額 |
認 可 外 保 育 施 設 |
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上限月額 3万7,000円 |
(*1)5年間の経過措置として、指導監督の基準を満たしていない場合でも無償化の対象とする猶予期間を設ける
「特例の適用は2019年12月末で終了予定でしたが、4年間延長になりました。空き家の要件も緩和され、相続開始直前に親が老人ホームに入居していた場合でも一定の要件を満たせば特例の対象となります」(望月さん)。要件緩和の適用は2019年4月1日以降の譲渡に適用されます。
(*3)4月以降は、一定の要件を満たしていれば相続開始直前に親が老人ホームに入居していても対象に
2019年の制度改正カレンダーに挙げた項目のうち、大きな目玉になるのが「働き方改革」。その目的は働く人々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現するというものです。4月に第一弾が始まり、今後働き方が変化していくでしょう。働き方の変化は収入の変化に直結します。変化の中でも家計をやりくりしていくためにはどうしたらよいのか、長期的な視点に立った方針を考える必要がある年になりそうです。
もう一つの大きな目玉が10月の消費税の改正です。10%への税率引き上げはこれまで2度にわたり延期されましたが、現政権は3度目の延期はしないと明言しているので、引き上げ前提で計画的に行動する必要があります。税率引き上げにより消費マインドが冷え込んで景気が落ち込み、所得の伸び悩むおそれもあります。それに備えて支出を見直し貯蓄も増やすといった足下を見つめ直す作業も重要です。将来に向けて貯蓄の一部を投資に回すことも選択肢になるでしょう。