2021年3月からマイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになる予定です。これにより医療の質の向上や、医療費の自己負担関連の手続の利便性アップが期待できそうです。マイナンバーカードの健康保険証利用とはどのような仕組みでどんなメリットや注意点があるのか、医療関連の情報に詳しいファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんに教えていただきました。
マイナンバーカードを保険証として使うとなると、まず気になるのが12ケタのマイナンバーを医療機関等の受付窓口で見られてしまうのではないかということではないでしょうか。「その点は心配ないとされています。マイナンバーカードを健康保険証として利用するときには12ケタのマイナンバーは使用せず、カードに搭載されたICチップで本人確認をする仕組みになっているからです」。
①マイナンバーカードのICチップで、患者の本人確認と患者が加入する公的医療保険の資格が確認できる。
②患者の同意を得たうえで、患者が過去に処方された薬剤情報や、特定健診等情報(*1)を閲覧できる。
*1 特定健診は生活習慣病(糖尿病等)の予防や早期発見・改善を目的に、保険者が40歳以上(74歳以下)の加入者に対して実施する健康診査。特定健診情報は特定健診の結果の情報のこと(75歳以上は後期高齢者健診情報)。
③災害時は特別措置として、マイナンバーカードによる本人確認ができなくても薬剤情報等の閲覧ができる。
医療の質の向上を考えたときに重要になるのは②と③だと黒田さんは話します。②は当初は薬剤情報と特定健診等情報に限られますが、2022年夏をめどに手術、移植、透析の情報など、取得できる情報の範囲が拡大される予定です。
「これにより、患者がどんな薬を服用しているか、どんな病気があってどんな治療を受けていたかなど、処方された薬剤の履歴や治療の履歴の情報が一元化されます。本人の同意があれば、どこの医療機関を受診しても情報を閲覧できるようになるので、その情報に基づき、適切な治療が受けられるようになりそうです。患者も医師に自分の病歴や服用している薬の説明をいちいちしなくて済むようになるので、受診の煩わしさが一つ減ると考えられます」。
また、③の災害時にも薬剤情報を閲覧できることにより、持病のある人が災害に遭ったときに大きな助けになります。
図表1 健康保険証として利用するための手順
申し込みに必要なもの
① 申込者本人のマイナンバーカード
② あらかじめ市区町村窓口で設定した4ケタの暗証番号
③ マイナンバーカード読取対応のスマホ(またはパソコンとICカードリーダー)
④ 「マイナポータルアプリ」(マイナンバーカードを利用するためのアプリケーション)のインストール
STEP1
ブラウザで「マイナポータル」と検索し、マイナポータルへアクセスする
※マイナポータルアプリは閉じる
STEP2
「健康保険証利用の申込」の「利用を申し込む」をクリック
STEP3
利用規約等を確認して同意
※併せてマイナポータルの利用者登録が行える。
STEP4
マイナンバーカードを読み取る
(4ケタの暗証番号を入力し、マイナンバーカードをスマホにぴったりと当てて読み取り開始ボタンを押す)
申込完了!
「利用の手続は自分で行うのが基本で、マイナンバーカードを取得していることが大前提です。取得済みの人はパソコンもしくはスマートフォンでマイナポータル(*2)にアクセスし、健康保険証として利用するための申し込みを行います」(黒田さん)。この手続をすることでマイナンバーカードを保険証として利用できるようになります。
*2 マイナンバーカードの自分専用のサイトのこと。
マイナンバーカードの健康保険証利用を普及するために、健康保険証の申込手続を大きな病院や自治体の窓口で行う可能性もあります。「その場合、院内や役所内にポスターが貼られたりすると思いますので、行く機会があったときに気を付けるようにするといいでしょう」。
マイナンバーカードの健康保険証利用には6つのメリットが挙げられています。1つずつ見ていきましょう。
健康保険証は就職・結婚・転職・引っ越しなど人生の節目の際に切り替えが必要になりますが、マイナンバーカードであればずっと同じカードを健康保険証として利用できます。
ただし加入先の公的医療保険が変わったときには保険者(*3)に異動の届け出をしなければならない点は従来の保険証と同様です。「異動の届け出の情報は前述のオンライン資格確認等システムによりリアルタイムで反映されるので、保険証の切り替えが不要になるわけです。また、マイナンバーカードは一定期間ごとに更新しますが、その際、健康保険証としての機能は引き継がれるため、再申込は不要です」(黒田さん)。
*3 健康保険事業の運営主体。健康保険の場合は協会けんぽか勤務先の健康保険組合、国民健康保険なら市区町村。
これはどちらかというと医療機関側のメリット。マイナンバーカードを保険証にすると、前述のオンライン資格確認等システムにより、患者に窓口に設置の顔認証付きカードリーダーまたは汎用カードリーダー(顔は窓口の職員が目視で確認)の所定の位置にマイナンバーカードをかざしてもらうと、瞬時にその患者の公的医療保険の資格確認ができます。
「患者側はカードリーダーにマイナンバーカードをかざし、本人確認のために自分で暗証番号を入力するなどの手間が生じますが、薬剤情報・特定健診情報閲覧について同意のボタンを押すと、受診の前に医師等が薬剤情報や特定健診情報を閲覧し診療の準備をしてくれます。これは患者にとってのメリットです(*4)」(黒田さん)。
*4 特定健診情報の確認は保険者により開始時期が異なる。
医療費の自己負担割合は年齢や年収(所得)などに応じて1割、2割、3割と定められています。「ただし、1カ月の自己負担が一定額を超えると高額療養費制度により超過分が払い戻されることになっています」(黒田さん)。
図表2 1カ月の自己負担上限額
69歳以下の場合
適用区分 | 1カ月の上限額 (世帯ごと) |
|
---|---|---|
ア | 年収約1,160万円~ |
25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% |
イ | 年収約770万~ |
16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% |
ウ | 年収約370万~ |
8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% |
エ | ~年収約370万円 |
5万7,600円 |
オ | 住民税非課税者 |
3万5,400円 |
※ 1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含む)では上限額を超えない時でも、同じ月の別の医療機関等での自己負担(69歳以下の場合は2万1,000円以上であることが必要)を合算することができる。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となる。
70歳以上の場合
適用区分 | 外来 (個人 ごと) |
1カ月の 上限額 (世帯 ごと) |
|
---|---|---|---|
現役 並み |
年収約1,160万円~ |
25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% |
|
年収約770万~ |
16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% |
||
年収約370万~ |
8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% |
||
一般 | 年収約156万~ |
1万8,000円 |
5万7,600円 |
住民税 非課税 等 |
Ⅱ住民税非課税世帯 |
8,000円 |
2万4,600円 |
Ⅰ住民税非課税世帯 |
1万5,000円 |
※ 1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含む)では上限額を超えない時でも、同じ月の別の医療機関等での自己負担を合算することができる。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となる。
例えば69歳以下で年収600万円の人の場合、医療費の自己負担割合は3割なので、100万円の医療費がかかった場合、30万円の負担となります。しかし高額療養費制度により1カ月の自己負担額の上限は
8万100円+(医療費−26万7,000円)×1%
という式で計算することになるので、医療費が100万円かかった場合の自己負担額は
8万100円+(100万円−26万7,000円)×1%=8万7,430円となります。
30万円のうち8万7,430円を超えた金額である21万2,570円は払い戻されます。
あらかじめ医療費が多くかかることがわかっている場合には、加入先の公的医療保険の保険者に「限度額適用認定証」の発行を申請しておくと、自己負担上限額までの支払いで済みますが、通常は医療機関の窓口で当初の自己負担額を支払い、その2〜3カ月後に払い戻しを受けるケースが多く、一時的に家計に大きな負担がかかる場合もあります。
「マイナンバーカードを保険証にするとこの問題が解消されます。限度額適用認定証の申請をしていなくても、患者の同意のもと医療機関側が患者の適用区分の情報が得られるので、自己負担上限額までの支払いで済むようになるのです。急な入院などの場合、限度額適用認定証を申請するのはなかなか難しいことなので、これは大きなメリットだと思います」。
「3月(予定)から自分の特定健診情報を(*4)、10月(予定)から自分が処方された薬剤情報をマイナポータルで確認できるようになるので、自分の健康情報を一括管理できるようになります」(黒田さん)。
ただし、複数の医療機関を受診している場合や世帯合算などの適用を受ける場合など、払い戻しを受ける手続が別途必要になるケースもあるのでご注意ください
医療の質の向上については前述のとおりです。
*4 特定健診情報の確認は保険者により開始時期が異なる。
10月からマイナポータルで「いつ・どこの医療機関で・いくらの医療費がかかったか」自分の医療費の情報を閲覧・管理できるようになる予定です。これにより便利になるのが確定申告の医療費控除です。
「マイナポータルからe-Tax(電子申告)への情報連携も始まり、申告書への医療費の自動入力が可能になるため領収書の保管や入力作業の手間が不要となり、確定申告の医療費控除が格段に便利になります。ただし閲覧・管理できる医療費は前月の9月分からとなるので、2021年分の確定申告で自動入力できるのは2021年9月以降の医療費だけ。したがって本格的に医療費控除が便利になるのは来年2022年分の確定申告からとなります」(黒田さん)。
なお、医療費控除については本人の分だけでなく家族の分も合算して申告するお宅もあるでしょう。「その場合、家族の分のマイナンバーカード(現物)と暗証番号を全て揃えれば医療費情報の確認はできますが、自動的に合算してe-Taxで申告することまではできないので注意しましょう」。
図表3 医療費情報の確認スケジュール
2021年
10月から
前月9月分の医療費情報から確認できるようになる
(1〜8月分は確認不可)
本格的に医療費控除に活用できるのは、2022年分の確定申告から
いろいろメリットのあるマイナンバーカードの健康保険証利用ですが、もちろん注意点もあります。
まず医療機関等の全てが一斉に導入するわけではないこと。通院している病院の一部が導入していても、他が導入していなければ相変わらず従来の保険証も持ち歩く必要があります。「全医療機関への導入は2年後の2023年3月がめどとされているので、それまでにこのような不便さは解消されていくことでしょう」(黒田さん)。
マイナンバーカードを保険証として持ち歩くことで紛失するリスクも生じます。「マイナンバーカードのICチップには、受診歴や薬剤情報などプライバシー性の高い情報は格納されません。紛失した場合には24時間365日いつでも下記のフリーダイヤルを通じて一時停止をすることができるので覚えておきましょう」。
0120-95-0178