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資産形成

2024.05

かんたんにわかる 月刊 経済・為替ダイジェスト5月号

  • #経済
  • #為替

ソニーフィナンシャルグループ株式会社の金融市場調査部が最新のマクロ経済・為替相場の見通しについて解説します。

※執筆日(5/2)時点の情報となります。

マクロ経済見通し

執筆者シニアエコノミスト 渡辺 浩志

渡辺 浩志

世界の不安を映す金価格

金価格が高騰しています。年初から横ばい圏で推移していたドル建ての金価格は、3月以降に動意づき、その後の上昇率は一時20%に迫りました。金価格はなぜ上昇しているのか、背景を探ります。

金は通貨を代替する資産であるため、ドル建ての金価格は、ドルの価値を表す米国の「実質金利」と連動してきました(図1)。しかし、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻と同年3月の米国の金融引き締め開始を契機に、この連動性は途切れました。金価格が実質金利の動きに反して上昇しているのはなぜか——。そこには以下の3つの理由があります。

■図1:金価格と実質金利の連動性が途切れた

図1:金価格と実質金利の連動性が途切れた

注:実質金利=米10年国債利回り‐米ブレークイーブンインフレ率(10年)
出所:CME、Bloomberg、SFGI

第1に、「安全資産としての金需要」があります。戦争やテロなど世界の地政学リスクに関する新聞記事の数を集計した「地政学リスク指数」は、ウクライナ戦争や中東情勢の緊迫化を受けて上昇しており、22年以降の国際情勢が高い緊張状態にあることを物語っています(図2)。こうしたなか、安全資産として現物の金を手元に置きたいという需要(有事の金買い)が金価格を押し上げています。この先、11月の米国大統領選挙に向けた自国第一主義の高まりや、トランプ前大統領の再選などがあれば、国際情勢はさらに複雑化し、金価格をもう一段押し上げそうです。

第2に、「中央銀行による金購入」の急増があります。22年、ロシアに対する経済制裁として、西側諸国はロシアが海外中銀に預けていた米国債などの外貨準備を凍結しました。こうした「ドルの武器化」への警戒が高まるなか、中国を筆頭に新興国のドル離れが進んでいます。新興国の中銀は外貨準備として保有するドル資産を減らし、金への切り替えを急いでいます。米国や欧州などの民主主義陣営と中国やロシアなどの権威主義陣営の分断や対立が続く限り、中銀の金購入も続く見込みです。

第3に、「中国人の金購入」があります。習近平政権は民間企業の台頭を嫌い、21年以降、ITや不動産業などへの統制を強化しました。これを受けて中国の株価や不動産価格が下落すると、失望した中国人のマネーは海外株や現物の金(地金や金貨、宝飾品)へと向かいました。中国人の金購入の増加は、習政権と人民元への信認低下を反映したものと言えます。以上の通り、金価格は地政学リスク・分断リスク・チャイナリスクなど、世界の様々な不確実性を反映しています。その解消がすぐに見通せないなかで、金価格の上昇はまだしばらく続きそうです。

■図2:地政学リスク指数は国際情勢の緊張状態を表す

図2:地政学リスク指数は国際情勢の緊張状態を表す

注:戦争やテロなど世界の地政学リスクに関する新聞記事の数を集計
  水平線は期間平均値
出所:Caldara and Iacoviello(2022)、SFGI

今月のキーワード

金価格の上昇=通貨の信認低下

金は究極の安全資産であり、どこの国でも通用する決済手段です。様々なリスクが高まるなかでの金価格の上昇は、法定通貨よりも金のような無国籍通貨を確保したいという需要の表れであり、国家や通貨への信認低下の裏返しでもあります。現在、法定通貨では「ドル一強」ともいえる状況ですが、ドル建て金価格が上昇していることは、そのドルよりも金の価値の方が高まっていることを意味します。また、円の価値はドルに対して下落しているため、金に対しては輪をかけて下がっています。2000年頃に1g=1,000円程度だった金の国内店頭小売価格は4月に一時13,000円を超えました。円建て金価格の高騰は、円の価値の下落を表すものです。

為替相場見通し

執筆者シニアアナリスト 森本 淳太郎

森本 淳太郎
ドル高・円安要因
  • ★★☆ 米国経済の底堅さと粘着的なインフレ
  • ★★☆ 日銀の緩和的な金融政策長期化への思惑
  • ★★☆ 米国の利下げ期待の後退と金利上昇
  • ★★☆ 中東を巡る地政学リスクの高まりによる資源高騰
ドル安・円高要因
  • ★★★ 政府・日銀の為替介入への警戒感
  • ★☆☆ 米国の利下げ期待の高まり
  • ★☆☆ 世界経済鈍化への懸念
  • ★☆☆ ロシア・中国・中東を巡る地政学リスクの悪化

(各要因の蓋然性を3段階で表示)

■過去2ヶ月の為替推移

過去2ヶ月の為替推移

出所:Bloomberg、SFGI

日米金融政策と止まらないドル高・円安

3月に2022年以来の円安水準まで上昇したドル円相場ですが、4月に入ると一段とドル高・円安が進行しています。4月中旬にレジスタンスとなっていた152円を突破すると、その後は円安が加速し、4月下旬には一時160円台に急騰するなど、荒い値動きと共に急速に円安が進むこととなりました。きっかけとなったのは、日銀の金融政策決定会合です。植田総裁は記者会見の中で、「足元の円安は物価の基調に大きな影響を与えていない」との認識を示したことが、日銀が円安を容認したと捉えられ、急激な円売りに繋がりました。その後は日本の当局による為替介入とみられる大規模な円買いにより一時的に円高に振れる場面も見られていますが、本格的なトレンド転換には至っていません。

一方、米国側の金融政策スタンスの転換もドル高進行の要因となっています。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はこれまで、米国のインフレは単月で見れば強い結果が出ることはあるものの、緩やかに抑制に向かっているとの認識を示していました。しかし、足元の強い経済指標を受け、スタンスを転換。5月1日の連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文には「ここ数カ月、2%のインフレ目標に向けてさらなる進展は見られていない」との文言が追加され、パウエル議長もインフレ抑制に確信が得られるまでには時間が掛かりそう、つまり、利下げ開始は遅れそうだとの認識を示しています。FRBの方針転換を受け、当社もドル円相場がドル安・円高に向かう時期を後ずれさせ、7-9月期にドル円のボトムが来るとの見方に変更しました。ただ、堅調な米経済を背景に、ドル売りが大幅に進む可能性は低く、ドル円は引き続き過去と比較すれば円安水準で推移すると予想しています。今後も、円安リスクに警戒が必要な状況は続きそうです。

ソニーフィナンシャルグループ
アナリストの紹介

尾河 眞樹(おがわ まき)

尾河 眞樹|おがわ まき

ソニーフィナンシャルグループ
執行役員(金融市場調査部担当)
チーフアナリスト

ファースト・シカゴ銀行、JPモルガン・チェース銀行などの為替ディーラーを経て、ソニー財務部にて為替リスクヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析を担当。2016年8月より当社。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、日経CNBCなどにレギュラー出演し、金融市場の解説を行っている。主な著書に『〈最新版〉本当にわかる為替相場(2023年日本実業出版社)』、『ビジネスパーソンなら知っておきたい仮想通貨の本当のところ(2018年朝日新聞出版社』などがある。ソニー・ライフケア取締役、ウェルスナビ株式会社取締役。

菅野 雅明(かんの まさあき)

菅野 雅明|かんの まさあき

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアフェロー チーフエコノミスト

1974年日本銀行に入行後、秘書室兼政策委員会調査役、ロンドン事務所次長、調査統計局経済統計課長・同参事などを歴任。日本経済研究センター主任研究員を経て、1999年JPモルガン証券入社(チーフエコノミスト・経済調査部長・マネジングディレクター)。2017年4月より当社。総務省「統計審議会」委員ほか財務省・内閣府・厚生労働省などで専門委員などを歴任。日本経済新聞「十字路」「経済教室」など執筆多数。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、日経CNBC「昼エクスプレス」コメンテーター。1974年東京大学経済学部卒、1979年シカゴ大学大学院経済学修士号取得。

渡辺 浩志(わたなべ ひろし)

渡辺 浩志|わたなべ ひろし

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部長
シニアエコノミスト

1999年に大和総研に入社し、経済調査部にてエコノミストとしてのキャリアをスタート。2006年~2008年は内閣府政策統括官室(経済財政分析・総括担当)へ出向し、『経済財政白書』等の執筆を行う。2011年からはSMBC日興証券金融経済調査部および株式調査部にて機関投資家向けの経済分析・情報発信に従事。2017年1月より当社。内外のマクロ経済についての調査・分析業務を担当。ロジカルかつデータの裏付けを重視した分析を行っている。

石川 久美子(いしかわ くみこ)

石川 久美子|いしかわ くみこ

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアアナリスト

商品先物専門紙での貴金属および外国為替担当の編集記者を経て、2009年4月に外為どっとコムに入社し、外為どっとコム総合研究所の立ち上げに参画。同年6月から研究員として、外国為替相場について調査・分析、レポートや書籍、ブログ、Xなどの執筆、セミナー講師、テレビやラジオなどのコメンテーターとして活動。2016年11月より当社。外国為替市場の調査・分析業務を担当。

宮嶋 貴之(みやじま たかゆき)

宮嶋 貴之|みやじま たかゆき

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアエコノミスト

2009年にみずほ総合研究所に入社。エコノミストとしてアジア・日本経済、不動産・五輪・観光等を担当。2011年~2013年は内閣府(経済財政分析担当)へ出向。官庁エコノミストとして『経済財政白書』、『月例経済報告』等を担当。2021年4月より当社。主な著書(全て共著)は『TPP-日台加盟の影響と展望』(国立台湾大学出版中心)、『キーワードで読み解く地方創生』(岩波書店)、『図解ASEANを読み解く』(東洋経済新報社)、『激震 原油安経済』(日経BP)。

森本 淳太郎(もりもと じゅんたろう)

森本 淳太郎|もりもと じゅんたろう

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアアナリスト

みずほフィナンシャルグループにて企画業務、法人営業などを経験した後、2019年8月より当社。外国為替市場の調査・分析業務、特にユーロやポンド、スイスフランなどの欧州通貨を専門に担当。TOKYO MX 「Stock Voice 東京マーケットワイド」、日経CNBC「朝エクスプレス」「GINZA CROSSING Talkマーケットニュース」などにレギュラー出演し、金融市場の解説を行っている。2013年東京大学経済学部卒。

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