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資産形成

2024.09

かんたんにわかる 月刊 経済・為替ダイジェスト9月号

  • #経済
  • #為替

ソニーフィナンシャルグループ株式会社の金融市場調査部が最新のマクロ経済・為替相場の見通しについて解説します。

※執筆日(9/2)時点の情報となります。

マクロ経済見通し

執筆者金融市場調査部長 渡辺 浩志

渡辺 浩志

金価格上昇、第5の理由

金価格が上昇しています。ニューヨーク金先物価格は1トロイオンス=2,500ドル台の最高値圏で推移しています。その理由として挙げられてきたのは、主に4つ。さらにいま、5つ目となる金価格の上昇要因が浮上しています。

金価格は最高値圏にあります(図1)。その主な理由は次の4つです。第1は「有事の金買い」。ウクライナ戦争や中東紛争などの地政学リスクが高まるなかで、安全資産としての金を買う動きが強まっています。

第2は「中央銀行の金買い」。ウクライナ戦争を受け、西側諸国はロシアの外貨準備(米国債等のドル資産)を凍結しました。ドルが経済制裁の武器として使われることを目の当たりにした新興国(特に中国)の中銀が、保有する米国債を売って金を買う動きを強めています。

第3は「中国人の金買い」。習近平政権は市場への規制を強め、これが中国の不動産価格や株価の下落につながっています。政策に失望した個人のマネーが金へと向かっています。

第4は「米国の利下げ期待」です。米国では年内に1%前後の利下げが見込まれています。これでドル安が進めば、その分だけ金が値上がりする公算です。こうした金の先高観が投資マネーを惹き付けています。

■図1:金は史上最高値圏

図1:金は史上最高値圏

出所:CMX、Bloomberg、SFGI

そしていま、第5の理由が浮上しています。米大統領選でトランプ氏が再選した場合に備えた「トランプ・トレード」です。ブックメーカーが賭け金からはじき出す当選予想確率は、6月27日のテレビ討論会や7月13日のトランプ氏銃撃事件、同21日のバイデン氏の大統領選からの撤退とその後のハリス氏の登板で目まぐるしく変化しています(図2)。確率は五分五分で勝敗は開票までわかりませんが、ハリス氏当選なら政策は現路線継承、トランプ氏再選なら経済・市場に波乱が予想されます。

トランプ氏の主要政策は、大型減税や保護主義(高関税による貿易戦争)、移民排斥などであり、いずれもインフレを刺激します。特に、保護主義や移民排斥は、景気悪化とインフレが同時に進む「スタグフレーション」を招きかねません。そうした混乱が起こると金価格は上昇しやすくなります。6月のテレビ討論会以降の金価格の上昇は、投資家がトランプ氏再選後のスタグフレーションを警戒したことの表れでしょう。一方、ハリス氏が当選した場合はこの警戒が後退し、金価格は一時的に反落する可能性があります。ただし、上記の第1~第4の理由により、金価格の上昇基調が崩れる可能性は低そうです。

■図2:米大統領選2024 ブックメーカーの当選予想確率

図2:米大統領選2024 ブックメーカーの当選予想確率

注:ブックメーカーが賭け金から算出する当選予想確率
出所:Real Clear Politics、Bloomberg、SFGI

今月のキーワード

スタグフレーション

景気悪化(スタグネーション)と物価上昇(インフレーション)が同時に進む状況を「スタグフレーション」と呼びます。トランプ氏は全ての輸入品に10~20%の関税を課すと公約していますが、これは貿易の停滞(景気悪化)と米国民の関税負担増(インフレ)につながるでしょう。また、トランプ氏が移民を排斥すれば、個人消費や住宅需要の減少(景気悪化)と人手不足による賃金上昇(インフレ)を招くでしょう。トランプ政策によって米国経済がスタグフレーションとなれば、市場ではドル安・株安・債券安のトリプル安が起こりやすくなります。そのような時には、価値が目減りしにくい「安全資産」であり、どこの国でも通用する「無国籍通貨」である金に投資マネーが集まりやすくなります。

為替相場見通し

執筆者シニアアナリスト 森本 淳太郎

森本 淳太郎
ドル高・円安要因
  • ★★☆ 米国経済の底堅さと粘着的なインフレ
  • ★★☆ 米国の利下げ期待の後退と金利上昇
  • ★☆☆ 市場心理改善に伴うキャリートレードの再開
  • ★☆☆ 中東を巡る地政学リスクの高まりによる資源高騰
ドル安・円高要因
  • ★★★ 米国の利下げ期待の高まり
  • ★★☆ 米国の景気悪化懸念による株安
  • ★☆☆ 日本の利上げ期待の高まり
  • ★☆☆ 政府・日銀による為替介入への思惑

(各要因の蓋然性を3段階で表示)

■過去2ヶ月の為替推移

過去2ヶ月の為替推移

出所:Bloomberg、SFGI

円急騰から一旦様子見へ

7月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったことを皮切りに、投機筋が円キャリートレード(低金利通貨である円を調達し、高金利通貨に投資することで金利差を享受する取引)を急速に手仕舞うと、160円台で推移していたドル円相場は一時141円台までドル安・円高が進行しました。ただ、その後は140円台で一旦安定した値動きが続いています。7月にかけてドル円相場が急激に円安に振れた背景には、上記のキャリートレードが過度に活発化したことがありました。ただ、この円安はこれまでの日米実質金利差との連動性からでは説明のできない、いわば「行き過ぎた円安」であり、持続性は低かったと言えます。4月の日銀金融政策決定会合における植田総裁の発言をきっかけに過度な円安が進行し、7月11日発表の米CPIをきっかけにこれが巻き戻ったことが、急激な円安と円高の背景にあります。足元では、投機筋のポジションは円買い・円売りどちらにも大きくは傾いておらず、今後はこれまでのような急激な値動きは見られにくくなることが予想されます。

今後のドル円相場を見通す上で重要なのは、米国の利下げペースです。8月のジャクソンホール会合で、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は9月の利下げ開始を示唆しましたが、その後の利下げに関しては「データ次第」とのスタンスを崩していません。まずは、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で発表されるドットチャート(政策金利見通し)で、どのような先行きが示されるか要注目です。仮に年内の利下げ幅の見通しが75bpにとどまるようであれば、市場では既に100bpの利下げが織り込まれているため、ドルの買い戻しが強まることが予想されます。ただ、市場の利下げ期待が来年に持ち越されるようであれば、年内のドル買いの勢いも長続きはせず、年末にかけては緩やかなドル売り基調が続く公算です。

ソニーフィナンシャルグループ
アナリストの紹介

尾河 眞樹(おがわ まき)

尾河 眞樹|おがわ まき

ソニーフィナンシャルグループ
執行役員(金融市場調査部担当)
チーフアナリスト

ファースト・シカゴ銀行、JPモルガン・チェース銀行などの為替ディーラーを経て、ソニー財務部にて為替リスクヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析を担当。2016年8月より当社執行役員。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、日経CNBCなどにレギュラー出演し、金融市場の解説を行っている。主な著書に『為替ってこんなに面白い!(2024年幻冬舎新書)』、『〈最新版〉本当にわかる為替相場(2023年日本実業出版社)』などがある。ソニー銀行株式会社取締役、ウェルスナビ株式会社取締役。

菅野 雅明(かんの まさあき)

菅野 雅明|かんの まさあき

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアフェロー チーフエコノミスト

1974年日本銀行に入行後、秘書室兼政策委員会調査役、ロンドン事務所次長、調査統計局経済統計課長・同参事などを歴任。日本経済研究センター主任研究員を経て、1999年JPモルガン証券入社(チーフエコノミスト・経済調査部長・マネジングディレクター)。2017年4月より現職。総務省「統計審議会」委員ほか財務省・内閣府・厚生労働省などで専門委員などを歴任。日本経済新聞「十字路」「経済教室」など執筆多数。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、日経CNBC「昼エクスプレス」コメンテーター。1974年東京大学経済学部卒、1979年シカゴ大学大学院経済学修士号取得。

渡辺 浩志(わたなべ ひろし)

渡辺 浩志|わたなべ ひろし

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部長
シニアエコノミスト

1999年に大和総研に入社し、経済調査部にてエコノミストとしてのキャリアをスタート。2006年~2008年は内閣府政策統括官室(経済財政分析・総括担当)へ出向し、『経済財政白書』等の執筆を行う。2011年からはSMBC日興証券金融経済調査部および株式調査部にて機関投資家向けの経済分析・情報発信に従事。2017年1月より当社。内外のマクロ経済についての調査・分析業務を担当。ロジカルかつデータの裏付けを重視した分析を行っている。

石川 久美子(いしかわ くみこ)

石川 久美子|いしかわ くみこ

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアアナリスト

商品先物専門紙での貴金属および外国為替担当の編集記者を経て、2009年4月に外為どっとコムに入社し、外為どっとコム総合研究所の立ち上げに参画。同年6月から研究員として、外国為替相場について調査・分析、レポートや書籍、ブログ、Xなどの執筆、セミナー講師、テレビやラジオなどのコメンテーターとして活動。2016年11月より現職。外国為替市場の調査・分析業務を担当。

宮嶋 貴之(みやじま たかゆき)

宮嶋 貴之|みやじま たかゆき

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアエコノミスト

2009年にみずほ総合研究所に入社。エコノミストとしてアジア・日本経済、不動産・五輪・観光等を担当。2011年~2013年は内閣府(経済財政分析担当)へ出向。官庁エコノミストとして『経済財政白書』、『月例経済報告』等を担当。2021年4月より現職。主な著書(全て共著)は『TPP-日台加盟の影響と展望』(国立台湾大学出版中心)、『キーワードで読み解く地方創生』(岩波書店)、『図解ASEANを読み解く』(東洋経済新報社)、『激震 原油安経済』(日経BP)。

森本 淳太郎(もりもと じゅんたろう)

森本 淳太郎|もりもと じゅんたろう

ソニーフィナンシャルグループ
金融市場調査部
シニアアナリスト

みずほフィナンシャルグループにて企画業務、法人営業などを経験した後、2019年8月より現職。外国為替市場の調査・分析業務、特にユーロやポンド、スイスフランなどの欧州通貨を専門に担当。TOKYO MX 「Stock Voice 東京マーケットワイド」、日経CNBC「朝エクスプレス」「GINZA CROSSING Talkマーケットニュース」などにレギュラー出演し、金融市場の解説を行っている。2013年東京大学経済学部卒。

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