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人生100年時代のマネープラン 第6回 もし病気になったら…治療と仕事を両立するための備え方

人生100年を見据えたマネープランを立てるには、「健康」は欠かせないキーワードです。病気になると医療費がかかるのはもとより、長期的な療養や治療が必要になれば仕事の継続が難しくなる場合も。収入減により、ライフプランに大きな影響が出るおそれもあります。とはいえ対処の仕方を知っていればリスクは小さくできるはず。病気と仕事を取り巻く環境の変化から、会社員と自営業者のそれぞれの備え方、公的な保障や支援制度まで、社会保険労務士の望月厚子さんに聞きました。

病気の治療と仕事を両立する社会に

働き方改革も両立の後押しに

「会社員の場合、長期的な治療が必要な病気になると、退職しなければならないと思い込んでいる人が少なくないもの。しかし、世の中の流れは治療と仕事を両立する方向にあります」と望月さんは強調します。
「かつては不治の病とされていた病気でも、医療の進歩などから長く付き合う病気に変化。仕事をしながら治療を続けている人も多数います」(望月さん)。

例えば「がん」。新たにがんと診断される人は年間約85万人を数えますが、そのうち約3割が就労世代(20〜64歳)です(*1)。がんと診断され5年後に生存している割合(5年相対生存率)は1993~1996年の53.2%から2006~2008年には62.1%に向上(*2)。仕事を持ちながらがんの通院治療をしている人は約32.5万人いると推計されます(*3)。

*1 国立がん研究センター「がん登録・統計」による2011年推計値。

*2 国立がん研究センター「日本のがん生存率の最新全国推計公表」(2016年)。

*3 厚生労働者「平成22年国民生活基礎調査」に基づく推計。

「こうした動きを背景に、国も病気の治療と仕事の両立の後押しをしています」。その一つが、厚生労働省が2016年に公表した「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」。がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎などの病気を抱える人が、無理なく治療と仕事を両立できるように、配置転換などの就業上の措置や、時短勤務(短時間勤務制度)などの治療に対する配慮といった取り組みを企業に促しています。

「国が推進している働き方改革の実行計画の中にも『病気の治療と仕事の両立』が盛り込まれています。病気治療中の社員に対する企業の意識改革や受け入れ体制の整備、主治医や勤務先の産業医なども含めた支援体制の構築などが提示されています」。

勤務先の制度をチェック

ただし、病気治療中の社員への措置や配慮は法的には義務づけられてはいません。「対応していない企業が多いのが現状です。育児・介護に関しては、仕事との両立のために時短勤務などの措置を講じることが法的に義務づけられているので、それを病気の治療の場合にも適用する企業もあります」(望月さん)。なかには就業規則に病気の治療に関する項目を設け、手厚い内容になっている企業も見受けられるといいます。「病気(業務外の私傷病)で休む場合の休職制度も含めて、一度勤務先の病気関連の制度がどうなっているのか確認しましょう」。

病気になったら家計はどうなる?
<ケース別対策>

次に病気で休職した場合に家計にどんな経済的リスクが生じ、それに備えるにはどうすればよいのか、ケース別に見ていきましょう。

夫は会社員、妻は専業主婦の家庭

「一家の稼ぎ手が、病気で休職すると収入が途絶えるおそれがあります」(望月さん)。一定の貯蓄がないと、生活費や住宅ローンの支払いが賄えなくなります。「子どもの進学プランにも影響が出る場合があります。中学から私立へ進学させるプランを高校からに先送りするなど、進学先の変更も考えられます」。

「社員が休職した場合、勤務先は法的には給与を支払う義務はありません。しかし、なかには休職中も給与の3~5割程度を支払う会社もあるので、就業規則に目を通し、有給休暇も含めて私傷病で休職した場合の制度を確認しておきましょう」。休職中に勤務先からの給与の支払いがない場合、もしくは少額の場合には、前述の傷病手当金を受け取れます。規定の障害状態になった場合には障害年金が受け取れます。

「なお、休職期間が長引くと復職できない場合もあります。休職期間は法的に定められているものではなく、会社によって3カ月、6カ月、1年などまちまち。休職期間が満了しても復職できる体調ではない場合の取り扱いは就業規則によります。一般的には自然退職となりますが、解雇になる場合もあります」。

一定の貯蓄を準備しておく必要があります。「目安としては、住宅ローンの返済額も含めて生活費の半年分程度。一般的に半年ぐらいたつと、復職の可否も含めて今後の病気との付き合い方の見通しが立てられるようになります。それまで家計がもちこたえられるように備えておきましょう」。半年たっても復職の目処が立たない場合には、配偶者が働くことも選択肢に加える必要がありそうです。

また、加入中の生命保険の医療特約や医療保険の保障内容にも目を通して、病気による収入減をどの程度カバーできるか確認しておきましょう。「入院給付金の日額などに不足がないかチェックして、必要に応じて早めに見直しを検討してください」。

住宅ローンについては、がんなど所定の病気で一定期間以上働けない状態が続くと、返済が全額免除される疾病保障付きのタイプもあります。「返済免除の要件をよく確認しておくことが重要です。仮に所定の病気になっても、要件から外れていると返済免除にならないので注意しましょう」。

夫も妻も会社員の共働き家庭

共働きなら、夫婦どちらかが病気で休職するような事態になっても、すぐに家計が行き詰まるわけではありません。「ただし、住宅ローンについてペアローンなど夫婦2人で返済している場合、どちらかが病気で収入減になったとしても、1人分免除というわけにはいかないので注意しましょう」。

「共働き家庭の場合、子どもを私立の中学や高校に通わせているケースもよく見受けられます。親の収入減により学費の支払いが難しくなることもあります」。

自営業者の家庭

「妻が夫の事業を手伝っていたり、従業員を雇っている場合であれば事業は継続できます。ただし、夫1人で働いている場合には、病気で休業=売り上げがゼロになりかねません。事業にかかる経費と、家庭生活にかかる費用のそれぞれが賄えなくなるおそれが出てきます」。

「自営業者は病気になった場合の保障が手薄なので、貯蓄で備えるとともに保険での備えも重要です。保険は必要に応じて見直しましょう。備えは家庭用と事業用に分けて検討するのがポイントです」。

「家庭用は住宅ローンの返済も含めて生活費の半年分程度のお金を貯蓄と保険で準備しましょう」。事業用は業種などにより異なりますが、「事業にかかる経費の支払いが、向こう3カ月分程度滞らないだけの資金を準備しておくこと。従業員を雇っている場合には、給料も3カ月分程度準備しておく必要があります」。

病気による経済的リスクを助ける
公的保障制度

人生100年時代における最大のリスクヘッジは「働き続けること」。働きながらも、病気になったときに利用できる公的な保障や支援制度について紹介します。

図表1 主な公的保障と申請窓口

医療費の自己負担を軽減する
「高額療養費制度」

「公的医療保険(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)の制度です。病院等の窓口での自己負担はかかった医療費の1〜3割ですが、1カ月の自己負担額が年収に応じた上限額を超えると、高額療養費として払い戻されます」(望月さん)。

例えば69歳以下の場合、1カ月に100万円の医療費がかかると、自己負担額は30万円(医療費の3割)となりますが、年収約370万~約770万円の人なら高額療養費として21万2,570円が払い戻され、実質的な自己負担額は8万7,430円で済みます。

病気やけがで休職したときに受けられる
「傷病手当金」

「傷病手当金は公的医療保険のうち健康保険(協会けんぽ、健康保険組合)の被保険者、つまり会社員が対象です。病気やけがにより休職したときに勤務先から給与が支給されない、もしくは低額になった場合に受け取れます」。

傷病手当金の支給額は、支給開始前1年間の平均給与(標準報酬月額)を日額換算した金額の3分の2程度を1日分として、最長で1年6カ月間受け取れます。ただし、会社を休んだ日から連続3日間をおいて4日以上休んだときに、4日目から支給が始まります。「会社によっては病気で休職しても給与の一部を支給するところもあります。給与の一部が傷病手当金を下回っている場合、その差額分を傷病手当金として受け取れます」。

なお、傷病手当金の金額や日数を上回る給付が受けられる会社もあるので、就業規則を確認しましょう。

図表2

(例)支給開始前1年間の標準報酬月額の
平均額36万円の人が100日間休んだ場合

国の定める障害状態になった場合に
受け取れる「障害年金」

「障害年金は公的年金の一つ。病気やけがにより、国の定める障害状態になった場合に受け取れます」(望月さん)。会社員で厚生年金加入者の場合は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」がダブルで受け取れます。自営業者で国民年金加入者の場合は「障害基礎年金」のみとなります。

「正確にいうと『初診日』の時点でどの年金制度に加入していたかにより、受給する障害年金は決まります」。初診日とは障害の原因となった傷病について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日のこと。「今は自営業者で国民年金に加入していたとしても、初診日の時点では会社員で厚生年金に加入していたという人は、障害基礎年金に加えて障害厚生年金も受け取れます。受給できる年金額に大きな差がつくので覚えておきましょう」。

障害年金を受け取るための要件は、初診日の前日において、(1)初診日のある月の前々月までの時点で、公的年金加入期間の3分の2以上について、年金保険料を納めているか免除されていること、または(2)初診日において65歳未満で、初診日のある月の前々月までの1年間に年金保険料の未納がないこと(初診日が2026年4月1日より前の場合)のいずれか。「会社員の場合は年金保険料が給与天引きなので問題ないのですが、自営業者は注意を。保険料の納付が難しい場合には保険料免除の申請して認められれば未納にはなりません」。

図表3 障害年金の内容は?

*1 第1子と第2子は各22万4,300円、第3子以降は各7万4,800円。
ただし子とは18歳になった年度の年度末日(3月31日)を経過していない子など。

*2 22万4,300円。ただし配偶者は年収850万円未満で65歳未満であること。

自治体の「自立支援医療制度」

都道府県、市区町村といった自治体では、障害や精神疾患を対象に自立支援医療制度を設けて、医療費の自己負担額の軽減措置などを行っています。「国は指定難病患者への医療費助成(対象は330疾病)をしていますが、自治体によっては対象疾病の範囲がさらに広い場合もあります。気になることがあった場合には、自治体のホームページや窓口などでチェックするとよいでしょう」。

望月さんからのアドバイス

長期の治療が必要な病気になっても、今はそれを支える制度や方法、相談窓口があります。会社員の場合、勤務先と相談しながら体調に合わせて働き方を調整する環境も整いつつあるので、なるべく退職という結論は出さずに仕事を続ける方向で検討することをお薦めします。

※掲載内容は2018年3月1日時点の情報に基づく
監修/望月厚子(社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー)
取材・文/萬真知子