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人生100年時代のマネープラン 第9回 親子で知っておきたい 財産引継ぎのポイント

親が年を重ねるにつれて心配事は増えるもの。いまはしっかりしていても、高齢になると判断能力は衰え、財産を自身で管理するのが難しくなる場合もあります。その先に控える相続への対策も含めて、子の立場としていまから何に着手すればよいのか。人生100年時代の超長寿社会に、改めて、どう財産を引き継ぐかを考えてみましょう。相続専門の税理士の福田真弓さんに教えていただきました。

親の財産、どう確認する?

親に財産の話を切り出すには?

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今後の親の財産管理や相続対策を考えるにあたり、まず知りたいのが、親はどんな財産をいくら持っているのかということ。現状把握ができれば、それに応じた具体策を考える段階に進めるからです。

とはいえ、お金の話は親子の間でもなかなか切り出しにくいもの。「とくに相続は親の死後のことなので、子の側からいきなり『相続対策のため』と切り出してしまうと、親もあまりいい気持ちはしません」と福田さんは指摘します。

そのプロセスを示したのが次のSTEP。親子、兄弟姉妹など、財産に関わる家族が集まったときに話し合いながら、各STEPの内容を実行してみましょう。親の財産の現状把握ができ、親も家族も納得のいく対策、ひいては相続後のトラブルが抑えられる対策へとつながるはずです。

「各STEPにおいて、子の側から親にアドバイスをするにしても、意思決定の主導権は親に渡してください。親の財産なのですから、親に自分の判断で決めたという納得感を持ってもらえるようにすることが、何よりも大切です」。

また、STEPを実践する前に、子の立場として「親の面倒をどこまで見るか」「介護にどのような考えを持っているか」をご夫婦や兄弟姉妹間で話し合い、道筋を立てておくことをお勧めします。

親の財産問題を解決に導く5つのSTEP

STEP1これからどう暮らしたいのかを
親に尋ねる

STEP2希望する暮らしのためには、
いくら必要になるかを計算

STEP3親の財産をリスト化する

自宅以外に不動産を持っていないか尋ねておくことも重要。遺されると困る不動産もあるからです。「地方の土地や山林、バブル時代に購入したリゾートマンションなどです。これらは売却が難しい場合が多く、遺されても相続人に固定資産税の負担が続くだけで“負の遺産”になりかねません。実際、売るに売れない不動産のご相談は最近増えています。親が元気なうちに処分してもらうのが最善です」。

親の財産がある程度把握できたら、親と一緒に「財産の種類」「取引金融機関」「金額」を一覧にまとめたリストを作りましょう。「財産リストは遺言、相続を含めて具体的なプランを立てる際に役立ちますし、将来、親が成年後見人や家族信託などを利用するときへの備えにもなります」。

リスト作りの作業を通じて、親がうっかり忘れていた財産を思い出すかもしれません。「思わぬハイリスクな投資商品を利用していることが見つかることもよくあります。親が内容を分かったうえで利用しているならよいのですが、そうでない場合には、子が株式相場などの状況をチェックの上、適宜親に現金化するように促すことをお勧めします」。

ネット銀行やネット証券との取引は見落としがちなので、口座の有無を確認しましょう。「どこに口座があるか分かっていれば、相続漏れが防げます」。

STEP4財産に余裕があれば相続対策を
講じる

「その結果、十分に余裕があれば、子や孫の世代への贈与も可能だと判断できます。一定の相続対策も必要になってくるかもしれません」(福田さん)。何も見当を付けずに、「将来の相続税の軽減のために」と慌てて贈与を実行してしまうと、後から親自身が資金不足に陥るリスクがあります。人生100年時代を迎えて、現状でも女性の2人に1人、男性の4人に1人が90歳まで生きる時代ですから(*1)、「長生きを想定して必要額が賄えるか考えておくことが重要です」。

*1 厚生労働省「平成28年(2016年)簡易生命表の概況」より

STEP5親の財産をシンプル化

個人差はありますが、一定年齢以上になると財産の管理が負担になってくるものです。「親の様子を見ながら、なるべく楽に管理できるように取引金融機関を絞り込むようにアドバイスしましょう」(福田さん)。

その過程で財産の内容もなるべく管理しやすく、相続しやすいように現金化(預貯金化)しておくことを福田さんは勧めます。「相続対策の観点からは、財産は現預金よりも、不動産などの換金しにくいものにしたほうが評価は下がり、税金が安くなります。半面、不動産は相続人になる子にとっては分けにくい資産で、相続後の名義変更や管理に手間がかかる厄介なものともいえます。親子双方とも楽になるには、取引金融機関は「銀行2行+証券会社1社」に、財産は「預貯金+投資信託+自宅」ぐらいにまとめるのが一例です」。

親が有料老人ホームなどの高齢者施設に入居を予定し、子が実家を継ぐ意思がない場合、親は自宅を生前に売却して現金化しておくことも選択肢になります。「親自身が売却すれば、居住用財産の3,000万円の特別控除という特例(*2)が利用でき、税制上有利に売却できます。ただし、意思決定は親主導でということを忘れずに」。

*2 自宅を売却したときに、譲渡益(売却した値段から取得費などの経費を差し引いた利益)から3,000万円を控除できる特例

相続のために知っておきたい基礎知識

上手に財産を引き継ぐために知っておきたい相続の
ポイントをQ&Aにまとめました。

Q&A

財産を相続できる権利があるのは誰ですか?

民法により定められた
「法定相続人」です

相続財産の取り分(法定相続分)は、法定相続人の順位によって定められています。配偶者と子が残された場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子が2分の1となります。子が複数人いる場合は法定相続分の2分の1を子の人数で分けます。「また、法定相続人のうち配偶者、第1順位の子、第2順位の直系尊属(親や祖父母)には、『遺留分』といって最低限保障されている遺産の取り分があります。第3順位の兄弟姉妹には遺留分はありません」(福田さん)。

財産のうち、何が相続税の対象になりますか?

経済的な価値のあるもの
すべてです

大きく分けると次の3つです。

(1) 相続財産

土地、家屋、現金、預貯金、株式、国債や社債、投資信託、絵画・美術品など。

(2) みなし相続財産(相続財産とみなす財産のこと)

被相続人(亡くなった人)が保険料を支払っていた保険の死亡保険金、被相続人が保険料を負担していた家族の生命保険契約など。「ただし保険金には非課税枠があり『500万円×法定相続人の数』の金額までは相続税がかかりません。また、保険金は遺産分割の対象外で受取人固有の財産となるため、特定の人に財産を遺したい場合に有効です」(福田さん)。

(3) 生前贈与財産

相続開始前(亡くなる前)の3年以内に法定相続人など(*3)が生前贈与を受けた財産は、相続税の対象になります。

*3 法定相続人でなくても、遺言により財産をもらうなどして相続税の申告が必要になる場合には、その人の生前贈与財産も相続税の対象に含めます。

いくら財産があると相続税が
かかりますか?

財産を相続税評価額に直して、
基礎控除額を超えた部分に
課税されます

基礎控除額は下記の式により計算します。(詳細は「課税対象者が大幅増加! 親子で知りたい相続税」

3,000万円
plus
600万円
multiply
法定相続人の数

遺言書は必要ですか?

法定相続人以外に相続させたい
場合などに必要です

遺言書があると、原則その内容のとおりに遺産が分割されます。「生前の事情により特定の子に法定相続分より多くの遺産を遺したかったり、法定相続人以外の人、たとえば介護をしてくれたお嫁さんに遺産を遺したいという場合には、遺言書が必要です」(福田さん)。(詳細は「相続でもめないための終活準備〜遺言入門」

よく二次相続が大変と聞きますが、実際はどうでしょう?

生前に話し合っておけばおのずと
二次相続対策ができます

両親のいずれかが亡くなった場合の相続を一次相続、遺された親が亡くなった場合の相続を二次相続といいます。「二次相続のときにはすでに両親とも他界し、兄弟姉妹間のトラブルを抑える人が不在なため相続が“争族”に至るケースも。ですが前項のSTEP1〜5の過程で親子・兄弟姉妹間で話し合っておけば、おのずと財産の分け方にも話が及ぶはずです。事前に納得感が得られる分け方を検討しておけば、二次相続のトラブルは回避できるでしょう」(福田さん)。

たとえば、長男、長女、次女という3人兄妹で、次女が両親と同居しているとします。「両親の生前に長男、長女には住宅購入資金を一定額贈与する代わりに、二次相続のときには次女が実家を相続すると決めておけば、次女が実家を独り占めするという不公平感は薄まり、もめ事は防げると考えられます」。

相続対策はいつから始めればよいのでしょう?

親が認知症になるとできなくなることが多いので、
早いほうが
よいでしょう

相続税を減らすにはどんな対策がありますか?

リスクが少ない方法として、生前贈与が考えられます

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福田さんのアドバイス
相続対策は「分けられるか」→
「払えるか」→「減らせるか」
の順に検討

相続対策=相続税の軽減対策という誤解があるようですが、まず相続財産が相続人の間で「分けられるか(遺産分割対策)」ということから考えるのが正しい手順です。相続税がかからない場合でも、「分けられるか」の対策は必要だからです。たとえばよくあるのが、財産が主に自宅というケース。不動産は簡単には分けられないので、分けられるように何らかの対策を講じておかないと、相続が起きたときにもめ事になりかねないからです。

相続税がかかる場合は、次に相続税が「払えるか(納税資金対策)」を検討します。相続税は現金一括納付が原則。無理なく相続税が支払えるように、財産の中に金融資産や生命保険を準備しておくとよいでしょう。

最後に相続税を「減らせるか」という税の軽減対策を講じます。この順番を取り違え、税の軽減のために財産をアパートなどの不動産に換えてしまうと、後から分けられない、スムーズに相続税も払えないというトラブルが生じるおそれがあるのです。

親の認知症対策にもなる資産承継手段

親が認知症になると相続対策が難しくなりますが、その備えとなるのが、最近注目を集めている「家族信託」という方法です。

財産管理の手段の一つ

家族信託とは財産管理や資産承継の手段の一つで、仕組は下の図のとおりです。「家族間で信託契約を結び、財産を託された人(受託者)が財産を託した人(委託者)の意向や目的にしたがって管理・運用し、受益者がその利益を得ます」(福田さん)。

家族信託を親の財産管理や資産承継のために活用する場合、親に判断能力があるうちに契約し、親が委託者、子が受託者、親が存命中は受益者も親という形態をとるのが一般的です。通常は契約内容を公正証書にして登記するので、司法書士や弁護士など専門家の力を借りる必要があります。

図 家族信託の仕組

家族信託の仕組

親が賃貸物件を保有している場合の選択肢に

家族信託のメリットは大きく2つあります。「一つは親が認知症になっても、契約したとおりの財産管理・運用が続けられること。もう一つは子→孫→ひ孫へと代々引き継がせたい財産がある場合に、誰に何を引き継がせるか指定できること。これは遺言では不可能です」(福田さん)。ただし、家族信託を利用すれば税の軽減になるなどの税制面でのメリットはとくにありません。

「現状では家族信託を検討する余地があるのは、親の財産にアパートなどの賃貸物件がある場合でしょう。親は認知症になるとアパート経営が続けられなくなりますが、家族信託の契約を結んでおけば、受託者である子が替わって経営できます。受益者を親にすれば、家賃などの利益は従来どおり親に入ります」。

ただし、比較的新しい制度のため専門家の間でも見解の相違があり、利用は慎重にと福田さんはアドバイスします。「利用するのであれば、家族信託の実績が豊富な司法書士や弁護士を選ぶことがポイントになります」。

※掲載内容は2018年6月1日時点の情報に基づく
取材協力・監修/福田真弓(税理士)
取材・文/萬真知子