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働き盛りの脳を「劣化」から守る!30代からの脳の育て方

「立ち上がった瞬間、何をしようとしていたか忘れた」「会議中に言葉が出てこない」……。それは脳の劣化の始まりかもしれません。今、ビジネスパーソンの脳で何が起こっているのか、劣化を防ぐために何ができるのか、脳研究のスペシャリストに聞きました。

教えてくれた人

加藤俊徳(かとう・としのり)先生
医学博士、「脳の学校」代表

加藤俊徳(かとう・としのり)先生
医学博士
「脳の学校」代表

昭和大学客員教授。米国ミネソタ大学放射線科MR研究センターでアルツハイマー病や脳画像の研究に従事。帰国後、脳の学校、加藤プラチナクリニックを開設。胎児から高齢者まで1万人以上のMRI脳画像を分析し、独自の脳画像診断法を開発し、発達障害や認知症予防のために薬だけに頼らない脳の処方箋を実施。『脳が知っている 怒らないコツ』(かんき出版)など著書多数。

ビジネスパーソンの脳で何が起きている?

今企業では、業務の効率化を図るために仕事の細分化が進んでいます。業務内容が固定化されると、毎日同じことの繰り返しになり、仕事はマンネリ化。脳は一部の機能だけを酷使し、使われない脳の機能はどんどん劣化していきます。

もう一つの心配事は、IT化です。もはやPCやスマートフォンがなければ暮らせない時代。でも頼りすぎていたら要注意! 頭も体も使わない暮らしで、脳の劣化は進んでいます。

鍛えれば、脳は一生成長し続ける!

「一定の年齢を超えたら、脳は衰える一方だ」と考える人もいるでしょう。しかし最近の研究で、脳は鍛えれば一生成長を続けるということが分かってきました。80歳の男性が新しく趣味などを始め、1年後にMRIで脳の変化を診断すると、小学1年生が2年生になったときぐらいに脳がめざましく成長していたという例もあります。

たしかに脳の神経細胞は年齢とともに減少しますが、人生経験を積むことで脳神経細胞同士のネットワークは広がり、密になります。このネットワークを強化していくことが、脳の成長につながります。そのためには、脳の機能をまんべんなく使うことが必要です。

「8つの脳番地」で、自分の脳を知ろう

脳は場所によって、担っている機能が異なります。脳には1,000億個を超える神経細胞があり、「記憶する」「理解する」など、同じような働きをする細胞が集まって「脳細胞グループ」を作っています。そのグループを「脳番地」と呼びます。

脳番地は大きく分けて8つ。どの脳番地が発達しているか、していないかは、その人の暮らし方や考え方、行動パターンによって異なってきます。よく使う脳番地は発達していますが、使っていない脳番地は発達していません。裏返せば、使っていない脳番地も使えばどんどん発達するということです。

では、あなたの脳の状態を簡単なチェックシートを用いて調べてみましょう。
当てはまる項目のをクリックしてチェックをつけてください。 当てはまる項目のをタップしてチェックをつけてください。

  • スマートフォンがないと
    不安……
  • 昨日食べたものが言えない
  • ノーと言えない
  • 「忙しい」が口癖
  • 机の整理ができない
  • 新しい仕事になかなか
    慣れない
  • 電話よりもメールを使う
    ことが多い
  • プレゼンが苦手
  • 漢字が書けなくなった
  • 初対面の人と話が弾まない

チェックがついた項目は右側の番号がついた脳番地が弱っていたり、疲れているかもしれません。自分はどの脳番地が弱いのかを知って、意識して鍛えていきましょう。

8つの脳番地の特徴と育て方

1 視覚系脳番地
「見る」「動きをとらえる」「違いを
見分ける(目利き)」の3つの働きを担う

使わないと…

  • 人の顔が思い出せない
  • 周囲の変化や違いに気づきにくい
  • 目の前にあるのに探す

育て方は…

  • 遠くの景色を見る
  • 絵画や写真を楽しむ
  • お洒落を楽しむ
2 理解系脳番地
外から入ってきた情報(言語・非言語)を
理解し、自分の知識にする役割を担う

使わないと…

  • データの読み込みが苦手
  • 新しい環境や技術にとまどう
  • セミナーや講義で寝る

育て方は…

  • 模様替えをする
  • 旅行の計画を立てる
  • 料理やDIY(日曜大工)に挑戦
3 聴覚系脳番地
耳に入ってきた情報(言語・非言語)を
聞き取る、聞き分ける機能を司る

使わないと…

  • 一方的に話す癖がある
  • 聞き間違えが多い
  • 一度で理解できずに聞き直す

育て方は…

  • 音楽や芝居を楽しむ
  • アウトドアで自然の音を聞く
  • ラジオを聴く
4 記憶系脳番地
言語・非言語の記憶(覚える、
忘れない、思い出す)の機能を司る

使わないと…

  • 相手の名前や顔を忘れる
  • 昨日の夕食が思い出せない
  • 細かい予定が覚えられない

育て方は…

  • 1日の出来事を記録する
  • 語学の勉強
  • メモを持たずに買い物
5 運動系脳番地
体を動かすこと全般を司る
スムーズな動き、手先の器用さにも関係する

使わないと…

  • ペンで字が書けない
  • ぶつかったり落としたりすることが多い
  • 運動不足でメタボぎみ

育て方は…

  • 散歩やスポーツを習慣に
  • アウトドアを楽しむ
  • 手先を使う趣味を持つ
6 思考系脳番地
物事を考える、決断する、計画する、
創造するなど高度な機能を担う

使わないと…

  • 決断できない
  • 2つ以上のことを同時にこなせない
  • 「やるべきこと」に追われて疲弊

育て方は…

  • 過去1週間の時間の使い方を書き
    出す
  • 「したいこと」リストを作る
7 伝達系脳番地
話す、伝えるなど、言語・非言語の
あらゆるコミュニケーションを司る

使わないと…

  • メールが書けない
  • プレゼンが苦痛
  • 会話が続かない
  • 説明がわかりにくいと言われる

育て方は…

  • ブログを書く
  • 飲み会や趣味の集まりなどに参加
    してみる
8 感情系脳番地
喜怒哀楽を表現する、
感情をコントロールするのに関与
人の感情を理解する役割を担う

使わないと…

  • 何を見てもつまらない
  • イライラが止まらない
  • 周囲から孤立してしまう

育て方は…

  • 直接人と会って話す
  • ご褒美を用意する
  • ミーハーになる
  • 思い切って休む

*「脳番地」は脳の学校の登録商標です(商標登録第5056139/第5264859)。

ビジネスパーソンの脳は、こうして育てる

特に努力をしなければ、50歳頃から脳は老化します。50歳になったとき、自分の脳が生き生きしているか、衰えているかは、30〜40代の使い方次第。若い頃から脳の機能をまんべんなく刺激していきましょう。

脳の劣化を防ぐ、5つのルール

1 苦手なことをやる
得意なことばかりをやっていると、特定の脳番地しか使われません。この状態では、脳の成長に不可欠な神経細胞のネットワークが広がりません。あえて苦手なこと、不慣れなことに挑戦しましょう。未発達な脳番地が刺激されて苦手を克服できるばかりか、新たな能力が開花する可能性もあります。
寄り道をする
会社と家の往復は脳のマンネリ化のもと。帰りに友だちと会う、映画を見るなど、いつもと違うアクションを加え、使っていない脳番地を刺激しましょう。スーパーで食材を買うのもお勧め。食材探しは脳をフル回転させます。時間がない人は、朝10分早く家を出て駅までの道のりを観察しながら歩いてみては。新たな発見があるはずです。
3 日記をつける
いつも仕事に追われていると、「1週間の記憶がない」ということに。「今日何をしたか」「何を感じたか」を振り返ることは大切。1日5分、手帳に書き留めておきましょう。記憶系脳番地が鍛えられます。紙とペンを使うことで、視覚系脳番地や運動系脳番地も使えます。これに「明日したいこと」を書き加えれば、思考系脳番地や感情系脳番地も活性化し、脳をまんべんなく鍛えられます。
4 夜は早く寝る
脳は質のいい睡眠によって、特に思考系脳番地のパフォーマンスが高まります。睡眠不足で脳を休めることができないと、脳細胞はオーバーワークになり、劣化も進みます。ネットサーフィンやテレビは早めに切り上げて、夜はきちんと寝ること。早く寝るために、夜遅くにドカ食いをしない、深酒をしないといった食生活の改善も必要です。
5 外出をする
体を動かす、景色を眺める、街の音を聞く、人と会話する……など、さまざま刺激を受けると、脳が幅広く発達します。週末は家族と一緒に散歩するのもお勧め。1時間ほど歩き続けるのがポイントで、みんなで道順を考えたり、雑談をしたりするなかで、家族との関係も築いていくことができます。運動系脳番地や視覚系脳番地が鍛えられます。

30代からの「年代別」脳の育て方

仕事でさまざまな経験を積むことで、脳はたくさんの刺激を受けます。一方で、「指示待ち」「合わない上司とは関わらない」といった人も。イヤイヤ仕事をしていると脳の働きは鈍くなります。自分から学ぶ姿勢を持ちましょう。家庭を持っている人は、帰宅後や週末に家事や育児をすることで、脳の柔軟性を育てましょう。

仕事の専門化とともに、脳のマンネリ化が進む時期。帰宅後も仕事モードから切り替えられず、脳に疲れがたまるので、意識して休ませることが大切。自分なりのリフレッシュの方法を見つけましょう。また、転勤や昇進、転職といった変化があり脳の刺激も多い年代。臆せず挑戦して、変化の波に乗っていきましょう。

ますます業務が専門化し、組織に染まっていく年代。一方で中間管理職を任され、部下を持ち、仕事項目が増えて手一杯となり、脳はフル回転。家族や健康、自分の夢などその他のことを考える「余白」がなくなります。あえて雑用をするなど、脳を休ませつつ、余白を意識した行動が必要です。

男性は40代後半で、気力・体力の衰えが顕著になります。45歳からは、あらためて「自己発見」するとき。この機会に定年後をイメージして目標を定めておきましょう。新しい分野に挑戦するもよし、若い頃の夢に再挑戦するもよし。リミッターを外して、柔軟に考えることで、脳はまだまだ成長します。若い頃には無駄だと思っていたことにも目を向けましょう。

女性は…

家庭が中心の女性は、日々の家事や子育て、親の介護に追われて、目の前のことを「こなしている」だけの状態になりがちです。いつも「〜をしなければ」と考えているので、思考系脳番地は動いているものの、ゆっくり理解する(理解系脳番地)、新しい情報を蓄積する(記憶系脳番地)、ワクワクする(感情系脳番地)ことが乏しくなります。その結果、子育てや介護が一段落した途端、燃え尽きてぼーっとしてしまうことも。

仕事を持つ女性は、家事や育児も同時進行で脳の使い方に幅があります。専業主婦の方はさまざまな脳の機能を活性化させるために、習い事や地域の活動に参加するなど、外に出て活動するチャンスを作りましょう。

<取材・文>奈良貴子