年末年始は温泉で疲れを癒やしたいと考えている人も多いのではないでしょうか。温泉にはさまざまな泉質がありますが、近年、健康効果を科学的に検証する研究も進んできました。日本人を虜にしてやまない温泉の魅力を、科学的にひもときます。
早坂信哉(はやさか・しんや)先生
東京都市大学人間科学部教授
一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長
温泉療法専門医。日本温泉気候物理医学会理事。1993年自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。2002年自治医科大学大学院医学研究科修了。浜松医科大学准教授、大東文化大学教授を経て現職。温泉、入浴に関する医学的な研究を行う。著書に『たった1℃が体を変える ほんとうに健康になる入浴法』(角川フォレスタ)。
温泉が体にいい理由は、大きく2つ。1つは体をあたためる温熱作用のほか水圧・浮力、清浄作用など、私たちの体に物理的に働く効果。もう1つは、温泉の成分が皮膚を通して体内に吸収され、体の機能が健康になる化学的効果です。
さらに、温泉にはこの2つだけでは説明できない特別な効果も。「温泉に行くとなんとなく気分がリフレッシュする」と感じたことはありませんか? この現象は、広く「総合的生体調整作用」と呼ばれます。
たとえば、血圧やホルモン値が高い人は低くなり、低い人は高くなるというように、自然治癒力で体の機能を正常に導く作用があるといわれています。
熱海市で3,000人以上を対象に調査したところ、自宅に温泉を引いている人では、血圧の薬を飲んでいる人の割合が温泉を引いていない人と比べて少ないということが判明。また、週に1回以上温泉に入っている人は、悪玉コレステロールが低く、善玉コレステロールが高いという結果も分かりました。悪玉コレステロール値が高いと、動脈硬化を引き起こすリスクが高まりますが、温泉入浴の習慣がコレステロール値の改善につながる可能性があると考えられています。
さらに、温泉に入ると、血管を若返らせるといわれる物質、一酸化窒素(NO)が増えます。温泉の温熱効果と相まって、血管が広がって血流がよくなり、動脈硬化を引き起こす原因といわれる高血圧の予防に効果があるということまで分かってきました。
そもそも温泉とは、
源泉の温度が25℃以上あるもの
あるいは、
地中から湧き出る水、水蒸気、その他のガスで、定められた規定量以上の化学成分を含むもの
と温泉法で定義されています。
そのうえで、日本にある主な温泉の泉質は次の10種類に分類されます。温泉の泉質は単一ではなく、単純温泉を除く9種類のうち1つが主成分となり、ほかは副成分として組み合わされています。泉質の適応から、自分に合った温泉を探してみてはいかがでしょう。
泉質1
単純温泉(たんじゅんおんせん)
泉質2
塩化物泉(えんかぶつせん)
泉質3
炭酸水素塩泉(たんさんすいそえんせん)
泉質4
硫酸塩泉(りゅうさんえんせん)
泉質5
二酸化炭素泉(にさんかたんそせん)
泉質6
含鉄泉(がんてつせん)
泉質7
酸性泉(さんせいせん)
泉質8
含よう素泉(がんようそせん)
泉質9
硫黄泉(いおうせん)
泉質10
放射能泉(ほうしゃのうせん)
かけ湯をして半身浴から始め、湯船を出るときはゆっくりと。上がり湯は必要ありませんが、体にしみるような泉質(含鉄泉、酸性泉、硫黄泉、放射能泉)の場合は上がり湯をしたほうがよいでしょう。入浴前後には忘れずに水分補給をしましょう。入浴後のビールは格別ですが、水分補給にはなりません。ビール以外で水分をきちんととりましょう。
温泉には湯気を吸い込むという利用法があります。日本人にはあまり馴染みのない方法ですが、海外では吸入療法として親しまれています。ナトリウムイオンなどの塩分を含んだ湯気は、特に呼吸器への効果が期待できます。温泉に入るときは意識的に呼吸を深くして湯気を吸い込んでみてください。
「湯治」は日本で古くから親しまれている温泉療法です。温泉地に一定期間滞在すると、体のバランスが正常値に近づく「総合的生体調整作用」が働くので、おおよそ1週間程度の湯治が理想的。まとまった休みをとるのが難しいのであれば、週末に気軽に温泉を利用するだけでも効果は期待できるでしょう。
厚生労働大臣が認定した「温泉利用型健康増進施設」で、医師が作成した「温泉療養指示書」に従って温泉療養をすると、確定申告で往復の交通費と利用料について、所得税の医療費控除を受けることができます。
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はるばる遠くの温泉に行くのもよいですが、近場で気楽に行ける温泉を見つけるのもおすすめ。早坂教授イチオシの温泉をご紹介します。
日本でも珍しい炭酸泉です
1つの温泉郷で11の温泉があり、
6タイプの泉質が楽しめます
健康増進施設。神戸港に浮かぶ絶景温泉
腐植質(太古の植物成分)の単純温泉。
東京に住んでいても気軽に通えます
海が臨めるスーパー銭湯。
手軽にリゾート気分が味わえます
・ドイツ・バーデンバーデンのフリードリヒ浴場(昔のローマ式浴場を模した温泉浴場)
・台湾の温泉施設(ホテルの一室のような個室に広い露天風呂がついていて、お湯は自分で張ります。ゆっくりくつろぎやすく、日本人にもおすすめ)
日本の大手メーカーが出している入浴剤の多くは、効果が科学的に証明されています。入浴剤には塩素を除去する作用もあるので、さら湯よりも入浴剤を使うほうがメリットは多くあります。いろいろな種類がありますが、化粧品あるいは医薬部外品として登録されている成分が明らかなものを選びましょう。
粉末タイプは、硫酸ナトリウムが主成分で、硫酸塩泉に近づけて温熱効果を強調するようなものです。炭酸タイプは、二酸化炭素泉を模して、血管拡張作用があります。冬は保湿をメインにしているものもあり、目的に合わせて選ぶのがよいでしょう。