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飼い主ができるペットの健康管理

ペットの飼育頭数は推計で犬が約990万匹、猫が約985万匹。合計すると15歳未満の人間の子どもの数を上回ります。"うちの子"として大切に飼われた犬や猫は、寿命が延びて、人間と同じように高齢化に伴う病気や介護が悩みとなっています。元気に長生きしてもらうために飼い主は何ができるのか、獣医師の林 文明さんにお聞きしました。

教えてくれた人

林 文明(はやし・ふみあき)さん
ノア動物病院グループ院長

獣医師。北里大学獣医学修士課程修了。米コロラド州立大学付属獣医学教育病院に留学し、欧米の先進動物医療を学ぶ。現在は山梨と東京で4医院、ベトナムで1医院を経営。一般診療から24時間診療、高度医療、専門医療、猫専門外来など、多様なニーズに応える診療を行う。飼い主探しを目的とした猫カフェも運営。2008年には飼い主やペット業界従事者の教育を目的とした日本動物医療コンシェルジュ協会を設立し、代表理事を務める。著書に『愛犬を長生きさせる食事』(小学館)など。

日本のペット事情ーペットも飼い主もご長寿さんが増加

2016年の犬の飼育頭数は987万8,000頭、猫は984万7,000頭。犬も猫も前年より減る傾向があります。減り方は犬のほうが大きく、今後は猫の数が犬の数を上回ると予想されています。

犬・猫の飼育数の推移(一般社団法人ペットフード協会「平成28年全国犬猫飼育実態調査」より)

猫は散歩の必要がなく、日中留守にしていても飼いやすいことから人気があり、世の中は「猫ブーム」といわれています。一方で今後、猫の飼育頭数も増えることはないという推察もあります。その理由は、飼い主の高齢化。ずっと犬や猫を飼ってきた人も、自分が60歳を迎える頃になると「もう新しい子犬、子猫を迎えるのは無理」と考えるようになります。自分が病気になって途中で飼えなくなる不安や、ペットより先立つリスクがあるからです。

平均寿命は、犬14.36歳、猫は15.04歳

その背景には、ペットの高齢化があります。

犬の平均寿命は14.36歳、猫の平均寿命は15.04歳※。ここ30年で寿命が約2倍も延びたといわれています。

長寿化の要因はいくつかあります。室内飼いが増え、事故やけんかで命を落とすリスクが減ったこと。ペットフードの質が向上したこと。病気の予防が浸透してきたことや、薬や治療方法が発達したことなど。

こうして寿命が延びるのは嬉しいのですが、ペットも年をとれば、人間と同じように病気がちになります。高齢犬や高齢猫の病気や介護が、飼い主にとって最大の悩みとなっています。

※ 一般社団法人ペットフード協会「平成28年全国犬猫飼育実態調査」より

医療も高度化、「人間並み」に

愛犬・愛猫が病気になったら、自分と同じように治療を受けさせたい――。

そうした飼い主の要望から、ペットの医療はどんどん高度化しています。それに応えるように、先進的な医療技術を身につけるため、海外留学をする獣医師も増えています。

動物病院の数も増え、救急病院や高度専門病院も登場。定期的なワクチン接種や健康診断、軽い病気やケガの治療はかかりつけの動物病院へ。夜中の急病は24時間の救急病院へ。重度の疾患であれば、CTやMRIなどの医療機器を備え、専門医も擁する大学病院や高度医療センターで治療が受けられます。人間の医療と同様に、動物病院も使い分ける時代になっています。

ペット保険には入ったほうがいい?

ペットの高齢化に伴い医療費も高額化しています。ペット保険を販売するアイペット損害保険株式会社のアンケートによると、当初の想定以上にかかったペット費用として、犬猫ともに「病気やケガの治療費」がトップで約4割を占めています。

当初の想定以上にかかった項目

犬オーナー
  • 1 病気やケガの治療費 43.3%
  • 2 ワクチン・健康診断等の予防費 22.5%
  • 3 フード・おやつ 14.5%
猫オーナー
  • 1 病気やケガの治療費 46.0%
  • 2 フード・おやつ 21.5%
  • 2 ワクチン・健康診断等の予防費 21.5%
アイペット損害保険株式会社「2017年ペットにかける年間支出に関する調査」より

また、ペット保険を専門に扱うアニコム損害保険株式会社への請求事例では、骨折で約26万8,000円の治療費がかかったケースも。さらに、手術前の検査でCTやMRI、抗がん剤や放射線治療が必要となると、治療費はかなりの高額に。慢性疾患の場合は、一生にわたり治療費と投薬代がかかります。ペット保険でカバーできれば、経済的にも精神的にも負担を軽減することができます。

ペット保険に加入していれば、ペットが病気やケガをして治療を受けたときに、費用の一定割合が保険金として受け取れます。補償割合は50%か70%が主流。保険を選ぶときには、何歳まで加入できるのか、どんな補償が受けられるのか、保険がきかない治療はあるのか、毎回全額支払われるのか、継続期間、保険料のアップはあるか、といった点を確認しましょう。

子犬・子猫のうちは必要ないと思っても、7歳を超えると保険の必要度が増してきます。すでに高齢のペットがいる場合は、保険選びの際、今からでも加入できるかどうかを確認しましょう。

飼うときに考えよう 「一生面倒を見られるか?」

子犬・子猫を迎え入れるときは、「これから20年、この子の面倒を見られるか」とよく考えることが大切です。20年とは大げさに思えますが、犬の中には17〜18歳、猫の中には20歳を超えて生きるご長寿さんもいます。

犬や猫に飼い主は選べません。「途中で飼えなくなった」は人間のわがまま。自分や家族のライフスタイルや人生設計とも照らし合わせ、熟慮することが大切です。

飼い主はペットを「子ども」と考えがちです。でも実際は、犬や猫は人間の5倍のスピードで生きていきます。犬・猫の20歳は人間なら100歳。やがて自分を追い越して、老犬・老猫になるという現実を踏まえて、若い頃からケアしてあげましょう。

犬のこと、猫のこと、本当に知っていますか?

"うちの子"と思うと、つい人間と同じような食事や暮らし方をさせたくなるもの。でも、犬・猫は人間とは違う生き物。必要とする食事も居住空間も人間とは異なります。犬や猫の飼い方を本で勉強したり、獣医師に相談したりして、正しい知識を身につけましょう。

飼い主ができる健康管理 5カ条

その1食事はペットフードを与える

ペットの健康に最も影響を与えるのは食事です。大前提は、人間の食べ物は与えないこと。味付けされた人間の食事は、犬や猫に悪影響を及ぼします。例えば糖分は糖尿病に、塩分は腎臓の病気の原因となります。タマネギ、ネギ、イカ、レーズン、チョコレートなども犬や猫には有害。調理の残り汁や加工品に入っていることに気づかずに与えて、中毒などを起こすケースもあります。また、観葉植物の葉には中毒を起こすものもあるので、誤食に注意しましょう。

ペットの食事は、犬や猫に必要な栄養を含み、余計な味付けをしていない良質のドッグフード、キャットフードに限定しましょう。

現在、数多くのペットフードが発売されています。ペットフードは「総合栄養食」を基本に与えます。与える量は守ること。原材料名(穀類、肉類、動物性油脂などすべての原材料が、含有量が多い順に書かれています)、原産国名などを確認して選びましょう。年齢によって食事内容も変わるので、ライフステージに合った商品を選ぶことも大切です。

その2治療よりも、まず予防!

犬・猫それぞれに特定の病気を予防するためのワクチン接種が決められています。また、フィラリア(寄生虫の一種)、ノミ・ダニを防ぐための予防薬も年間を通して必要となります。

避妊・去勢もホルモンと関係する疾患の予防になります。例えば、乳腺腫瘍は悪性腫瘍(乳がん)の割合が高く、犬の場合は50%、猫の場合は90%が悪性といわれています。避妊手術を施すことで、乳腺腫瘍の予防になることがわかっています。オスの場合は、去勢手術が前立腺の腫瘍や肛門周囲腺腫の一番の予防になります。

さらに、毎年の予防接種を機に、健康診断を受けておくのも一案です。犬・猫の場合、7歳からが高齢期といわれるので、7歳を過ぎたら定期的な検診を受けることを獣医師はおすすめしています。

その3スキンシップで
異常の早期発見を

日々のケアでは、日頃から愛犬・愛猫の体を触ったり、様子を観察しておくことが大切。元気がない、食欲がない、毛ヅヤが悪い、口臭がある、目ヤニや鼻水が出ている、しこりがある……など、いつもと様子が違ったら、早めに病院に連れていきましょう。

その4定期的に体重の変化をチェック

定期的な体重測定も体調チェックには役立ちます。一定量の食事を与え、運動もしていれば、極端に体重の変化はないはずですが、12〜13歳くらいになって、体重が減ってきたら何かしらの異常が隠れています。

体重は、大型犬の場合は普通に体重計にのせればいいのですが、5kg以下の小型犬や猫は抱えるか、人間の赤ちゃん用のベビースケールにのせると量りやすいでしょう。

その5犬は散歩、猫は遊びで
コミュニケーション

犬は運動不足解消や肥満防止に、朝晩の散歩が欠かせません。散歩はストレス発散、さらに飼い主とのコミュニケーションの時間にもなります。

猫は広さよりも高低差があることが大切。室内飼いでは、キャットタワーを置いたりして、高いところに上ったり下りたりできるようにしましょう。おもちゃで遊んであげることも大切。遊びは猫と人とのコミュニケーションになります。

それでも犬や猫と暮す意味はある

日々の世話もあり、外出もままならない。老犬・老猫になれば病気や介護も心配……。それでも犬や猫は、人間を幸せにしてくれる「コンパニオンアニマル」です。

犬や猫と一緒に育った子どもは、命の大切さを自然と学びます。犬や猫には、人間の体や心を癒やす力があり、ペットと暮らす高齢者は元気でいられるといいます。

そんな犬や猫は、人に頼って生きています。正しい知識を持って、その信頼に応えていきましょう。

<取材・文>奈良貴子