疲れがたまっているのに休めない、調子が悪いのに病院に行く時間がない……。そんな人におすすめするのが「ツボ押し」によるセルフケア。家でもオフィスでも簡単にできて、働き盛り世代の不調によく効く「ツボ」を専門家に聞きました。
柳本真弓(やなもと・まゆみ)さん
目白鍼灸院院長、鍼灸師
同志社大学卒業後、東京衛生学園で東洋医学を学び、鍼灸あん摩マッサージ指圧国家資格取得。医療リンパドレナージの資格を持つ。2007年に中医学に基づく鍼灸と漢方薬の治療院を開設。日本人の体質に合わせた丁寧な治療には定評がある。著書に『指3本で確実に捉える 不調に効くツボ』(NHK出版)、『「手」をもむ、触る、押すだけで、たちまち健康になる!』(マガジンハウス)など。
ツボは古代中国で生まれた治療法。東洋医学では2000年以上にわたり、ツボを利用した治療が行われてきました。その効果はWHO(世界保健機関)も認めるところ。2000年代に入ると、長い歴史の中で国によって違いが生じていたツボの位置や名称が統一されました。これからさらなるツボの科学的な解明が期待されています。
ツボ治療の基本には「経絡(けいらく)」という考え方があります。東洋医学では、人の体には経絡という道のようなものがあり、「生命エネルギー」の通り道になっていると考えられています。
経絡の流れがスムーズだと、体のバランスが保たれ、健康でいられます。しかし、その流れが滞ると体のバランスが崩れて、不調を起こしたり病気になったりするといわれています。
主要な経絡は14本あり、それぞれが特定の臓器と深い関係にあります。このルート上にあるのが「ツボ」です。ツボは皮膚にある特定のポイントで、生命エネルギーの出入口とされています。
ツボと臓器はつながっているため、臓器が不調になれば、それと関連するツボも「押すと痛い」「色が変わる」「硬くなる」といった異変が起こります。東洋医学では、この関係を利用して、外からは見えない臓器の異変を診断したり、ツボに刺激を与えて筋肉の凝りや痛み、内臓の不調、疲労やストレス症状などを改善することができるのです。
経絡、臓器、ツボのつながり
経絡は目には見えませんが、全身を巡っています。
例えると経絡は地下鉄で、ツボは駅のようなもの。駅の中には複数の路線が乗り入れるターミナル駅があるように、ツボの中にもいろいろな経絡が乗り入れ、複数の臓器に働きかけるものがあります。
WHOが定めたツボの数は約360。全身に点在していますが、中でも手(ひじから先)や足(ひざから下)には、いろいろな不調の改善に役立つ「万能ツボ」がたくさんあります。
手&足のツボマップ
関衝(かんしょう)
アレルギー、花粉症
少衝(しょうしょう)
のぼせ、動悸、不安、緊張
少沢(しょうたく)
首・肩の凝り
小骨空(しょうこっくう)
目の疲れ
中衝(ちゅうしょう)
のぼせ、眠気、舌のこわばり
商陽(しょうよう)
背中・肩・首の凝り、発熱
合谷(ごうこく)
目の疲れ、肩凝り、腰痛、かぜ、花粉症、二日酔い、緊張、下痢、便秘
少商(しょうしょう)
のどの痛み、せき
腰痛点(ようつうてん)
腰痛
大敦(だいとん)
イライラ、だるさ
隠白(いんぱく)
食欲不振
大都(だいと)
食欲不振、胃腸炎
行間(こうかん)
目の疲れ、高血圧
太衝(たいしょう)
吐き気、胃痛、過食、下痢
厲兌(れいだ)
食欲不振、歯痛、膝痛
足竅陰(あしきょういん)
頭痛、耳鳴り
至陰(しいん)
頻尿、膀胱炎
内庭(ないてい)
過食、歯痛
足臨泣(あしりんきゅう)
肩凝り、頭痛
手のツボも足のツボも全身の調整に有効ですが、大きく分けると、手には上半身に効くツボが多く、足には下半身に効くツボが多いという傾向があります。
デスクワークが多くて運動不足、緊張やストレスにさらされることが多い現代人は、頭に血液が集まりがち。血流も悪くなり、頭が重い、目が疲れる、肩が凝る、のぼせる、目がギンギンになって眠れない、といった症状が起こりやすくなります。一方、下半身には水分が落ちていき、滞りやすくなります。そして足が重い、むくむ、冷える、腰が痛いなどの不調が出てきます。
東洋医学では、このように体に偏りができて「バランス」や「巡り」が崩れると病気になると考えます。体のバランスを整え、全身の巡りを良くするのに、ツボ治療は効果的です。
さらに、手足には毛細血管が集まっているので、そこを刺激することで血流が効率よく改善されます。頭に集まっていた血液が末端の毛細血管に流れてくれば血圧が下がり、自律神経も副交感神経が優位になってリラックスモードに切り替えられます。
手と足のツボは、いつでもどこでも押すことができる手軽さも魅力。覚えておくと安心です。
日常で、意識して自分の手や足に触れてみる機会は意外に少ないものです。いつもと違う動きを通じて、自分の体の変化を感じてみましょう。
パソコンを操作したり、道具を持ったり.....。いつも丸まっている手を、ぎゅっと大きく伸ばしましょう。じゃんけんの「パー」の形で指を開き、少し力を入れて、反りぎみなくらいに伸ばします。
これで手の経絡が刺激され、上半身に気が巡り始めます。胸も開くので、呼吸も深くなります。手は脳と関連しているので、頭や目がはっきりするのも感じられるはず。
靴を脱いで、その場で足踏みをします。このときの足の感覚を覚えておいてください(写真)。
次に、足の裏にある湧泉(ゆうせん)というツボ(写真)を探します。
足の指5本を内側に曲げると表れるくぼみが湧泉です。
両手で足をつかみ、片方の親指を湧泉に当てます。タオルを絞るように右手と左手を互い違いにねじりながら、足全体をもみほぐします(写真)。
その後、もう一度足踏みをすると、もみほぐした足が軽くなったのを感じられるはずです。片足ずつ行って、その違いを確かめてみましょう。
ツボの位置はおおよそ決まっていますが、体の状態によって微妙に変化します。また人によって場所は多少異なります。
自分の肌をよく観察し、触ってみて、いつもと見た目が違う場所、感触の違う場所を探しましょう。変化は不調のサイン。その経絡や内臓に不調があるかもと知らせています。
押すと「気持ちいい」と感じるポイントを探して、軽く押していきます。押す場所によって、また強さによって、3つの押し方を使い分けましょう。
手や足のツボは狭い場所にあるので、親指1本で押します。
親指の腹をツボに当て、皮膚を軽く動かすように押し回しましょう。
ぎゅっと強く押したいときは、ペンのおしりで押しても。痛気持ちいい程度に押し回します。
痛みがあるとき、リラックスしたいときは強く刺激せず、3本指(人差し指・中指・薬指)の腹でやさしくツボをなでます。
なでるだけでも経絡の流れが良くなり、十分に効果的です。
手と足の指は、3本指(親指・人差し指・中指)でマッサージすると効果的。3本指で関節をはさみ、軽くひねるように動かします。指先と爪の脇は指2本ではさんでプッシュします。
ぐいぐいと強く押しすぎたり、「痛い!」と飛び上がるほど刺激するのは厳禁。「心地いい」と感じる強さで刺激することが大切です。また、ツボ刺激によって血圧が下がり、体がだるくなることもあるので、1カ所10秒くらいを目安にしましょう。
内臓にも働くので、満腹時と極度の空腹時、飲酒後の刺激は避けます。熱がある、けがをしている、感染症にかかっているときも避けましょう。
パソコンの操作や座り仕事など、デスクワークからくる凝りや痛み、ストレスに効果的なツボをピックアップ。仕事の合間に、通勤時間に、家でくつろぎながら……。不調は放置せず、その場で改善していきましょう。
症状・効果
万能ツボの代表格。痛み全般と、悪くなった気の巡りの改善に効力を発揮。現代人を悩ます目・肩・腰の痛みに最適・最強のツボです。
ツボの押し方
人差し指と親指の骨が交わる部分のくぼみにあります。親指の腹を当て、小指の方向に向けて骨に当たるように押し回します。
症状・効果
メンタルな悩みを抱える人は覚えておきたいツボ。自律神経を整え、緊張を緩める働きがあります。
ツボの押し方
手を握ったとき、中指と薬指の間にあります。親指の腹を当てて、もんだりさすったりします。
症状・効果
胃腸の調子を整えるツボ。全身の血流を促す働きもあり、目の疲れや腰の疲れの改善にも効果的です。
ツボの押し方
ひざの皿の外側にあるくぼみから指4本分下。すねの骨の外側。親指の腹を当て、足の中心に向かって押し回します。
症状・効果
ストレスからくる胃腸の不調に効くツボです。血流や気の巡りも改善するので、凝りにも効果的。合谷とセットで刺激すれば最強です。
ツボの押し方
足の甲。親指と人差し指の骨が交わる場所のくぼみにあります。親指の腹を当てて、やさしく押し回します。
症状・効果
ふくらはぎの筋肉が硬いと、腰に負担がかかってしまいます。アキレス腱をもみほぐして腰痛予防を。痔の改善にも効果的。
ツボの押し方
ふくらはぎの真ん中。アキレス腱をたどって筋肉にぶつかったところ。両手の指3本の腹を当て、硬いところをもみほぐします。
手の指、関節をもむ
指先には頭や目のツボがたくさんあります。眠くなったら、爪の脇と指先を反対側の指で強くつまんだり(写真)、爪を立てて押しましょう(写真
)。眠気覚ましなので、痛いくらいの刺激でOK。血流が滞りやすい指の関節も回すようにマッサージを。頭がすっきりしてくるはずです。
内関(ないかん)をさする
内関は消化器系に関わるツボ。食べ過ぎや飲み過ぎのむかつきや吐き気、食欲不振などに効果的です。場所は、手首のしわから指3本ひじ側(写真)。手を握ったときに表れる2本の腱の間を、3本指の腹でやさしくさすります(写真
)。手のひらの方向にさするのがポイントです。