精神状態は、睡眠の質に左右される!?
「一月は行く、二月は逃げる、三月は去る」とはよく言ったもので、今年もはや3月。あっという間にすぎていく日々のなか、ストレスを感じている人も多いのではないでしょうか。実は、ストレスと日々の睡眠時間には深い関係があります。自覚のない睡眠不足により「睡眠負債」が蓄積すると、ストレスに弱くなり、生活習慣病などのリスクも高まります。そこで今回は、心と体の健康のカギをにぎる「睡眠負債」についてご紹介します。
一般的に睡眠が不足すると、日中に「眠たい」「眠りが足りない」などの自覚があるものです。しかし「睡眠負債」の場合は、本質的には睡眠時間が足りていないにもかかわらず、本人にはその自覚がないことが多いのです。
実はこの睡眠負債、日本人の成人の多くが抱えている可能性があります。年齢によって異なるものの、成人であれば1日6時間半~7時間半の睡眠時間が必要です。しかし厚生労働省の調査によると、睡眠時間が6時間未満の人は、全体の約4割、40代については約半数にものぼります。そのため、必要な睡眠時間に到達していないにもかかわらず睡眠不足を感じていない人は、負債が溜まっている危険性が高いといえるのです。自覚症状を感じにくい睡眠負債は、決して他人ごとではないといえるでしょう。
※出典:厚生労働省 平成29年「国民健康・栄養調査」より引用
男女ともに、40代は約半数が
睡眠時間「6時間未満」という結果に!
睡眠負債を抱えていると、知らず知らずのうちに体調が低下して、さまざまな不調や肥満、生活習慣病などのリスクが高まります。なかには判断力や記憶力の低下、単純作業でのミスが増えるなど、仕事に悪影響をおよぼす可能性も。また睡眠負債を抱えている人は、しっかり睡眠がとれている人に比べてストレスに弱くなる傾向があります。これに関係しているのが、ストレスホルモンと呼ばれている「コルチゾール」です。コルチゾールは睡眠中に分泌されるホルモンで、睡眠時間の過不足により分泌量が変動します。分泌量が適量だと集中力が高まるなどのプラスの面も認められていますが、慢性的に多すぎると脳の働きが低下し、睡眠中に分泌される量が少なすぎると日中のストレスの影響が大きくなることが分かっています。
「+1時間」睡眠で、負債を返済!
睡眠負債は、雪だるま式に不調やリスクが大きくなっていきます。さらに、休日に“寝だめ”をしたところで、まとめて返済することはできません。“寝だめ”をする場合は、体のリズムに影響しないよう、2時間程度にとどめましょう。
負債を返済するには、睡眠時間を毎日少しずつ増やすことが大切です。まずは「+1時間」。1時間早く就寝するのが難しい人は、「30分早寝&30分遅起き」など工夫してみましょう。また、睡眠負債の返済には「15分プチ昼寝」も効果的です。ぐっすりと眠れるように、睡眠の質を高める工夫も有効です。
睡眠の質を高める5つのポイント
就寝前のひととき、スマホでSNSやゲームを楽しむ人は多いと思います。しかしこれは質の高い睡眠のためには控えたい習慣です。理由はSNSやゲームで興奮してしまうことだけでなく、スマホの画面から放射されている「ブルーライト」。ブルーライトを浴びると睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制され、眠気を感じにくくなってしまうのです。スマホやパソコンの使用は就寝の1時間前までにしましょう。同様に蛍光灯もブルーライトを放射しているため、就寝前には蛍光灯からあたたかみのある白熱灯に切り替えて、眠りに備えるとベターです。
視覚や聴覚による情報は大脳皮質を経由して伝えられます。大脳皮質は睡眠中に機能が低下するため、それに合わせて視覚や聴覚もにぶくなります。一方嗅覚は、大脳皮質を通らず、扁桃体や海馬に直接伝わるので、睡眠中であってもその機能は衰えません。そのため寝室でアロマを焚くことは、睡眠の質を高めるのに有効です。とくにおすすめなのが「ラベンダーの香り」。万能精油と呼ばれるアロマの代表で、リラックスやストレス解消のほか、抗炎症作用や皮膚の再生、免疫力アップも期待できるといわれています。もちろん、安眠にもおすすめです。
カフェインとアルコールを含む飲み物は、基本的に睡眠の質を下げてしまいます。カフェインの場合、覚醒効果がしばらく続くため、夕方以降はカフェインレスの「デカフェ」がおすすめです。またアルコールには寝つきをよくする効果がありますが、同時に安眠を阻害するという側面も。どうしてもという人は、「アルコール度数の高い酒を少量飲む」のがベターです。短時間で酔えるため、脳の一部への抑制効果が働き、眠気が訪れやすくなります。睡眠に影響がない範囲で楽しみましょう。
睡眠の質は「深部体温」によって大きく左右されます。深部体温とは、体の中心部の体温です。日中に比べると深夜から明け方にかけて低くなる傾向があり、深部体温が下がると眠りへと誘われます。そこで効果的なのが入浴です。入浴で体があたたまると、お風呂から出てから1時間程度かけて上がった体温が下がっていくので、自然に眠くなり、睡眠の質が向上します。深部体温を上げるには、39℃~40℃のぬるめのお湯に15分程度つかるのがポイントです。ただし40℃以上の熱いお湯では、かえって睡眠の質を低下させてしまうので注意しましょう。
深部体温を下げるためには、湿度にも注意が必要です。湿度が高すぎると放熱しにくいため、深部体温が低下しづらくなります。そこで気をつけたいのが靴下。冬場は「冷え性だから寝るときも靴下をはいている」という声は少なくありませんが、実は靴下をはいて寝ると、湿気がこもって熱が逃げないため、結果的に睡眠の質を低下させてしまいます。冷え性で手足が冷えて寝つけない人は、あたためつつも湿度を上げないよう、湯たんぽを活用しましょう。夏場も同様に、足先に扇風機の風を当てるなどして、深部体温を下げる工夫をするとよいでしょう。
ぐっすり眠って人生を豊かに!
睡眠負債を完済すれば、免疫力が上がり病気になりにくくなるだけでなく、ストレスに強くなったり、集中力が高まったりと、心身のパフォーマンス向上が期待できます。また「睡眠時間を十分とれている人は人生の満足度が高い」という研究データがあるほど、睡眠と生活の質は大きく関係しています。まずは「+1時間」と、睡眠の質を高めるちょっとした工夫を心がけてみましょう。
【監修】枝川 義邦さん
脳科学者/早稲田大学 研究戦略センター 教授
脳神経科学の専門家として脳の神経ネットワーク解析や行動解析を研究テーマに進める一方で、経営学や研究マネジメントの視点から人材を活かした組織や社会の成り立ち、消費者行動などを研究している。近著に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『たった30日!物忘れストップ!大人の記憶脳ドリル』(学研プラス)などがある。
お役立ちコンテンツへ戻る