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重大な病気のサインかも?口腔の疾患

口腔の疾患はむし歯や歯周病などがよく知られていますが、なかなか治らない口内炎なども要注意。口腔がんの恐れがあるからです。口腔がんは、外から自分で見て発見できる数少ないがん。早期発見もほかのがんよりはしやすいといえますが、食事や発話など生きる上で重要な機能を担うため、進行すると生活の質を大きく下げてしまいます。
口の中は自分で見ることができるのに、異常に気づかない人は意外に多いもの。定期的なセルフチェック&歯科医でのチェックが早期発見の近道です。

新谷 悟(しんたに さとる)先生
教えてくれた人

東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック 院長
新谷 悟(しんたに さとる)先生

元昭和大学歯学部顎口腔疾患制御外科学講座主任教授、元昭和大学歯科病院口腔がんセンター センター長。島根大学医学部臨床教授、山口大学医学部臨床教授、富山大学医学部臨床教授。口腔がんをはじめとする口腔疾患に対し国内トップクラスの治療実績があり、海外の医療機関への指導や啓発活動も行っている。

「ただの口内炎」にひそむ、治療が必要な病気とは

痛くてうっとうしい口内炎。医学的には口の中にできる炎症全般を指しますが、よくあるポツンとした白いできものは「アフタ性口内炎」といい、1〜2週間程度で自然に治る良性のもの。ほかにも、感染症*や膠原(こうげん)病など、ほかの病気を原因とする口内炎もあり、これらは原因疾患を治療すれば改善します。

*乳幼児に多い手足口病、口唇ヘルペス、帯状疱疹(ほうしん)など

このなかでもっとも注意したいのが、口腔がんや、口腔がんになる可能性の高い病気です。口腔がんは50歳以降の男性に多く、

喫煙

過度の飲酒

合わない義歯や詰め物、被せ物

熱いものをよく食べる

などがリスク要因として知られています。

いずれも口の中の粘膜を刺激し続けることで傷ができ、修復のために細胞分裂が盛んになる分、遺伝子の異常も起こりやすいのです。タバコのタールなど、発がん性の高い物質が傷から入りやすいこともリスクを高め、口の中の環境が悪いほど発症しやすいといえます。

口腔がんがもっとも発生しやすい部位は舌で60%(舌がんとも呼ばれます)、そのほか、頬の内側、口底(下顎の内側)、下の歯ぐきがそれぞれ10%前後、上の歯ぐきが6%程度となっています。

「ただの口内炎」ではない!命に関わる口の中の病気

病名 特徴
口腔がん 舌や頬の内側、歯ぐきなど、口の中の粘膜にできるがん。
扁平苔癬
(へんぺいたいせん)
細く白い線状の病変で、多くは頬の内側に網目のようにできる。
確率は低いものの、がんになる可能性もある(前がん状態*1)。
発症には金属アレルギーとの関連も指摘されている。
紅板症
(こうばんしょう)
鮮やかな赤い斑点状の病変で、ほとんどの場合、刺すような痛みがある。
50%前後の確率でがんになる、あるいはすでにがんになっているとされる
(前がん病変*2)。
白板症
(はくばんしょう)
こすってもとれない白い板状の病変で、痛みはなく、やや硬いものが多い。
5~10%の確率でがんになるとされる(前がん病変)。

*1 がん化リスクの上昇に関係する状態

*2 正常よりもがん化しやすい形態的変化

口腔がんの種類と割合

口腔がんの種類 割合
舌がん 55.6%
頬粘膜がん 9.5%
口底がん 10.1%
上顎歯肉
(じょうがくしにく) がん
7.6%
下顎歯肉
(かがくしにく) がん
13.6%
硬口蓋
(こうこうがい) がん
3.6%

(日本頭頸部癌学会頭頸部悪性腫瘍全国登録2015年調査)

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早期発見で9割は治癒! 月1回の自己チェックが口腔がんから命を守る

口腔がんのリスクを下げるには、先に挙げたリスク要因をできるだけ避けるとともに、ブラッシングやうがいなどで、口の中を清潔に保つことが大切です。ただし洗口剤(マウスウォッシュ)の中には粘膜に刺激の強いものもあるので、希釈するなどの工夫を。なお、唾液には粘膜を保護する働きがあるので、よく噛んで食べるなどで分泌を促すことも大事です。

それとともに、定期的に口の中をチェックし、早期に異常を発見することが何よりの対策になります。口腔がんは、がんの中でも数少ない「自分で直接見つけることが可能ながん」。早期発見できれば9割は治癒するとされています。

チェック法を下にまとめました。ポイントは、「触りながら見る」こと。特に口の奥の方は見えにくいので、触ったときの「痛い」「かたまりに触れる」「ざらざらしている」などの感覚が頼りになります。

チェック項目

治りにくい傷がある

ただれや、赤い斑点がある

こすってもとれない白い斑点がある

しこりや腫れがある

これらが、同じ場所に2週間以上あったら口腔がんの疑いが。
できるだけ早く口腔外科、または頭頸部(とうけいぶ)外科(耳鼻咽喉科内にある)を受診しましょう。

チェックの手順

洗面台の前で、照明をつけて行いましょう。月1回を習慣に!

① 唇

上唇、下唇それぞれ、指でめくって確認

② 頬

口を大きく開け、頬の内側をよく見る&指で触って異常(ざらざらやじゅくじゅく、ぼつぼつなど)がないか確認

③ 歯ぐき

上下それぞれ表と裏を、よく見る&指で触る

④ 口蓋(こうがい:口の天井)、
口底(こうてい:下顎の内側)

口を大きく開け、上下ともよく見る&指で触る

⑤ 舌

できるだけ突き出し、指で舌先をひっぱりながらもう一方の指で触る。がんは舌の横(舌縁部)にできやすいので特に念入りに

歯科医院では「粘膜も診てください」の一言を!

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セルフチェックとあわせて、歯科医院でも定期的に粘膜の状態を診てもらうようにすれば、早期発見できる可能性が高くなります。詰め物や被せ物、あるいは歯自体が知らないうちに欠けたり変形したりして、粘膜を刺激している場合もあるからです。

歯のクリーニングや歯周病・むし歯治療を受ける際、「粘膜も診てください」の一言を添えましょう。万一、異常が発見されれば、口腔外科や頭頸部外科を紹介してもらい、細胞を採取し調べるなどの、より専門的な検査を受けることになります。

口腔がんにかかった人の3割は、喫煙や飲酒といったリスク要因がなく発症しています。自分は大丈夫と過信せず、定期的に見て触って、歯科医にも診てもらう習慣をつけることが、口腔がんから命を守ります。

掲載内容は2019年6月1日時点の情報に基づく
取材協力・監修/新谷 悟(東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック 院長)
取材・文/渡邉 真由美