キーンと響いたりブーンとうなったり……煩わしい「耳鳴り」に手を焼いている人はいませんか?
実は耳鳴りの多くは、加齢にともなう「聞こえ」の低下を補おうと、脳ががんばりすぎてしまうことに原因があるといわれています。メカニズムを正しく知り、気にしないように工夫するだけでも改善が可能です。耳鳴り・難聴診療のスペシャリストにその対策と予防のポイントを伺いました。
済生会宇都宮病院 耳鼻咽喉科 主任診療科長・聴覚センター長
新田 清一 (しんでん せいいち)先生
慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部耳鼻咽喉科学教室入局。同教室助手、横浜市立市民病院耳鼻咽喉科副医長等を経て2004年より現職。2010年ヨーロッパ(セント・アウグスティヌス・ホスピタル等)へ臨床留学。慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室客員講師兼任。専門は聴覚医学(耳鳴り、補聴器、小児難聴等)と耳科学(中耳手術、人工内耳診療等)で、難聴・耳鳴りに対する補聴器療法「宇都宮方式」を開発、提唱。著書に『難聴・耳鳴りの9割はよくなる 脳を鍛えて聞こえをよくする「補聴器リハビリ」』(マキノ出版)
図表1 耳鳴りのメカニズム
減ってしまった電気信号を元に戻そうとする働きによって、脳が興奮し活動が活発になります。そして、過度に興奮した脳の活動そのものが、耳鳴りとして聞こえるようになります。
(取材をもとに作成/
参考文献「よくわかる耳鳴りハンドブック」(リオン株式会社))
耳鳴りがしても「疲れたときだけ」「いつの間にか消える」「たまに気になる程度」でしたら、そこまで問題ありません。しかし、寝ても覚めても鳴っていて、仕事や日常生活に支障が出るほど気になる場合、中には治療を要する病気が潜んでいる恐れもありますので、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
注意すべき病気は次表のとおりです。ほとんどの場合難聴もともないます。特に上の2つは働き盛り世代に多くみられます。
病名 | おもな症状など | 治療方法など |
---|---|---|
・突発性難聴 |
急に片側だけ耳鳴りしたり聞こえにくくなったりする。めまいをともなう場合も。ウイルスや血行障害説はあるものの原因不明。 | 一週間以内に投薬等の治療を開始すると改善の可能性があるので一刻も早い受診を。三か月以上過ぎると回復が困難に。 |
・急性低音障害型 |
急に低音が聞こえにくくなり、耳の詰まった感じに。自分の声や周囲の音が響いて聞こえるとともに「ブーン」「ゴーッ」といった低音の耳鳴りが起こる。 | ストレスや過労が原因と考えられている。治療法はおもに投薬と規則正しい生活指導。 |
・音響外傷 ・騒音性難聴 |
・大音量や爆発音のような衝撃音を聴いた直後に耳鳴りが起こる急性症状。早期の投薬治療が望ましい。 ・工場勤務等で長年大音量にさらされて起こる騒音性難聴は慢性化している。 |
現時点で有効な治療法がないため、予防が重要。 |
・メニエール病 |
めまいや耳鳴り、難聴を繰り返す。内耳のリンパ液が過剰になり起こるとされている。 | 投薬や規則正しい生活指導が治療の中心だが、有酸素運動が効果的なケースも。 |
・耳垢栓塞 |
耳垢がたまり聞こえが悪くなる。 | 耳垢を取り除けば症状は改善する。 |
・滲出性中耳炎 |
風邪などの後に、中耳に水(浸出液)がたまり鼓膜の振動が妨げられるために耳鳴りや難聴が起こる。 | 投薬や鼓膜切開などで水を減らせば症状は改善する。 |
・鼓膜穿孔 ・慢性中耳炎 ・耳硬化症 |
鼓膜や耳小骨(中耳にある小さな骨で、内耳へ音の振動を伝える)の動きが悪いために難聴や耳鳴りが起こる。 | 手術で聴力が回復する可能性がある。 |
・聴神経腫瘍 |
聴神経に発生する良性の腫瘍で、腫瘍にある片方の耳だけ難聴や耳鳴りが起こる。めまいが先に起こる場合も。 | 手術や放射線治療が検討されるが一般的に進行が遅いため、高齢者では経過観察をすることも多い。 |
(取材をもとに作成)
図表2 注意の脳と苦痛を感じる脳
(取材をもとに作成/
参考文献「よくわかる耳鳴りハンドブック」(リオン株式会社))
耳鳴りが気になるとストレスがたまります。ストレスでイライラ、クヨクヨしているときには、耳鳴りに限らず誰でも、わずかな体の不調がつらく感じられるもの。ストレス→感覚過敏に→苦痛が増大→ますますストレスがたまる、の悪循環に陥ってしまいます。それを断ち切ることがセルフケアの肝になります。
「今日の耳鳴りはどうかな?」などと、気にして耳鳴りを聞こうとしてしまうと、「注意の脳」が働きますます耳鳴りに対して過敏になってしまいます。耳鳴りの大きさを確認する習慣がある人は、減らしていくように心がけましょう。
耳鳴りがあるから友達と会いたくない、外へ出たくない、などと、やりたいことをあきらめてしまうと、かえって耳鳴りのことが頭から離れなくなってしまいます。耳鳴りに構わずやりたいことに集中している方が、「注意の脳」の働きが弱まり、気にならなくなってきます。
・しーんとした静かな環境にいると、耳鳴りの音が気になりやすく、「注意の脳」の働きが増してしまいます。家にいるときは、長時間流れていても不快にならない、川のせせらぎや波の音といった自然音を、生活の邪魔にならない程度に小さい音量で流しておくと、耳鳴りに気をとられにくくなります。
・なお、騒音や爆音は老若男女問わず難聴の大きな要因になります。近年は特に、ヘッドホンで大音量の音楽等を聴くことで発症する「ヘッドホン難聴」が世界的な問題に。ヘッドホンをするときには、外の音や会話が聞こえる程度の音量に調節しましょう。
補聴器は高齢者が使うもの、と思われがちですが、聴力には個人差があります。また、先に挙げた突発性難聴はむしろ若い世代に目立つことから、働き盛り世代でも難聴改善の目的で補聴器を使う可能性は十分にあります。ここでぜひ覚えておいていただきたいのは「補聴器はメガネと同じにあらず」。つまり、装着しただけでは十分聴こえるようにならないのです。難聴になると、耳も脳も音の刺激が弱い環境におかれています。
その状態で補聴器をただ装着しただけでは、入ってくる音が過剰な刺激となり、うるさく苦痛に感じられて、“そこそこ”聞こえる程度に補聴器の音量調整をしてしまいがちなのです。これではせっかく補聴器をつけても「大して変わらない」「少しましな程度」にとどまり、満足のいく聴こえ方が得られません。補聴器は適切な使い方をして初めて、難聴改善に役立ちます。必ず「リハビリ」とセットで、と覚えておきましょう。適切なリハビリは、補聴器を用いた音響療法(補聴器療法)を行っている医療機関で受けられます。