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誰もがすぐできる感染症対策「口腔ケア」

新型コロナウイルスの世界的流行により、手洗いなどの衛生管理の重要性がクローズアップされています。そこで目を向けたいのが「口腔ケア」。歯周病や虫歯自体が感染症である上、口腔環境が悪化すると外から入ってくるウイルスや細菌感染のリスクも高まります。また、体のさまざまな病気との関連も指摘されており、「口の健康は全身の健康を反映する」といっても過言ではありません。口腔ケアは、誰もがすぐできる感染症対策といえます。リスクを下げる最適解を専門家に伺いました。

五味 一博(ごみ かずひろ)さん
教えてくれた人

鶴見大学 歯学部歯周病学講座 教授
五味 一博(ごみ かずひろ)さん

鶴見大学歯学部大学院歯学研究科修了後、カナダ トロント大学歯学部生体材料学講座留学等を経たのち鶴見大学歯学部で教鞭をとり、2011年より現職。日本歯周病学会副理事長。生涯にわたり歯を良好な状態で残す重要性を説き、後進の育成にも尽力。

口腔環境が悪いと感染症のリスクが上がる

参考
データ
口腔ケアをすると
インフルエンザ感染リスクが下がる

専門的な口腔ケアを6か月間受けた98人と、受けていない人92人との比較で、受けた人のうちインフルエンザと診断された人は1人、受けていない人では9人。専門的な口腔ケアを受けた群で統計学的に有意に、罹患リスクが低かった
(下表中、Influenza vaccineはワクチン接種者数、Common Coldは風邪)。

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(Shu Abe et.al;Science Direct Archives Gerontology and Geriatrics 43(2006)
157-164/監修者提供)

悪玉菌からつくられるプロテアーゼという物質が、ウイルス表面のタンパク質を、上気道(のどや気管)の細胞に付着しやすい形態に変える働きがあり、これによってウイルスが感染、増殖しやすくなる。

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(イメージは監修者提供)

専門的な口腔ケアを受けた群では、このプロテアーゼの活性が、受けていない群に比べ有意に減少していたことがわかった。

TLP活性
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(Shu Abe et.al;Science Direct Archives Gerontology and Geriatrics 43(2006) 157-164/
監修者提供)

*「TLP(トリプシン様プロテアーゼ)」はタンパク質分解酵素の一つ。
歯周組織破壊因子の一種ともなる。

口腔環境の悪化が招くトラブルはこんなにある

歯周病や虫歯は感染症だけでなく、若い世代では口臭などエチケット面、高齢になると生活習慣病や認知症など、全世代にわたりさまざまな不調や病気の発症・悪化に影響します。

口臭、口が乾く

顎関節症(顎がかくかくいう、口が大きく開けられない)

咀嚼不良(食べ物がうまくかめない)

消化不良

糖尿病

動脈硬化

低栄養

早産・低体重出産

誤嚥性(ごえんせい)肺炎

認知症

これを行えば合格点!
汚れを徹底除去するホームケア

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口腔内の汚れは、食べたものの残りに細菌が増殖して形成されるプラークが主です。ねばねばして歯ぐきのきわや歯と歯の間にへばりつき、容易には落ちません。

ホームケアの範囲で、限りなく汚れをゼロに近づける方法をご紹介します。

Step1歯ブラシに何もつけず
「ながら磨き」

歯ぐきのきわにへばりついたプラークを落とすのは、歯磨き粉ではなくあくまで歯ブラシの仕事です。

しかし、歯磨き粉がたっぷりで泡がぶくぶくたつと、ブラッシングが不十分でも磨けた気になりやすいもの。まずは何もつけず、時間をかけてブラッシングするのがパーフェクトへの第一歩。テレビひと番組分を見ながらなど「ながら磨き」がおすすめ。

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磨く順番

磨き残しのないよう、一筆書きの要領で磨けるように
順番を決めておく(図は一例)。

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ブラシの当て方、磨き方の基本

手用歯ブラシでは歯に直角に当て歯肉に触れるくらいの位置に当て、歯ぐきを傷めない程度の強さで細かく左右に動かし汚れをかき出す。
音波歯ブラシでは歯と歯ぐきの両方にまたがるように軽く当てます。

Step2歯磨き粉をつけて
仕上げ磨き
Step3補助ツールで細部まで
クリーンに

ブラッシングだけでは歯間等の細部の汚れは落ちない。フロスや歯間ブラシ、ワンタフトは口腔ケアのマストアイテム。

補助ツールを選ぶ目安
補助ツール 歯の状態

フロス

歯並びに問題なく、健康な歯肉または歯肉炎や軽度の歯周炎で歯肉が少し盛り上がっている

歯間ブラシ

歯周病が進むなどで歯間に隙間がある

ワンタフト

歯並びが悪い、ブリッジをしている、歯間がとても広い

※歯間ブラシのサイズは、入れたときに少しだけ抵抗を感じる程度の太さを目安に。
太すぎると歯ぐきが下がる恐れがあり、細すぎると汚れが落ちない。

Step4マウスウォッシュで
コーティング

マウスウォッシュには大きく「イオン系洗口剤」「非イオン系洗口剤」の2種類がある。

種類 作用 使用方法 有効成分
イオン系
洗口剤
歯面やバイオフィルム表面に付着し、汚れの付着(プラーク形成)を抑制 歯磨き後に使用 クロルヘキシジン、
塩化セチルピリジニウム
非イオン系
洗口剤
バイオフィルム深部へ浸透し、プラークの抑制、歯肉炎の改善に働く 食間(歯磨きと歯磨きの間)に使用 エッセンシャルオイル
(フェノール化合物)
ポピドンヨード

磨き終わった後、汚れの付着を抑えるのはイオン系洗口剤。クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウムが有効成分として配合されている。

一方、非イオン系洗口剤は歯間についた汚れ(バイオフィルム)に浸透し作用するので、食間(歯磨きと歯磨きの間)に使用すると口腔内をより清潔に保つのに良い。

ただし、いずれのタイプも単体では歯磨きの代わりにはならない。

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「アドバンス・ケア」のアドバイス

電動歯ブラシの選び方は?

電動歯ブラシには大きく分けて「反復振動型」「音波」「超音波」の3種類ありますが、主流は音波歯ブラシ。ただし振動でずれやすいこともあり、歯面に適切に当たっていないために磨き残すことも。使う場合は歯科のかかりつけから、正しい当て方、使い方を指導してもらうのが確実です。

口臭対策のおすすめは?

口臭の原因には、副鼻腔炎などの鼻疾患や内臓の病気、におっていると思い込む自臭症などがありますが、病気を背景とした口臭でもっとも多いのは歯周病によるもの。歯周病の原因菌は舌にもつくので、舌苔のある人(舌表面が白い)は、市販の舌ブラシや、わらかい布などでぬぐうなどで、ある程度改善が見込めます。ただし強くこすると舌を傷つける恐れがあるので注意。セルフケアをしても気になる人はかかりつけの歯科医に相談しましょう。

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歯周病菌を抗菌薬で退治
「歯周薬物療法」とは

歯周病の治療では通常、専用の器具等を使い汚れや歯石を落としますが、数週間~数か月を要することが多く、重症の場合は汚れを落とし切らないうちに新たな汚れがつく“いたちごっこ”になりかねません。そこで、器具による清掃だけでなく、抗菌薬等の薬剤を併用することで歯周病の原因菌を一気に減らし、プラークを抑えることで口腔環境を良くする治療が検討される場合があります。これを「歯周薬物療法」といいます。

劇的な改善が期待できる治療法ですが、抗菌薬には副作用がともなうことと、治療の進め方や薬剤の選び方は個々のケースによって違い、医師の見立てが重要になるので、実績豊富な歯科医のもとで受けることが望ましいといえます。

掲載内容は2020年5月1日時点の情報に基づく
取材協力・監修/五味 一博(鶴見大学 歯学部歯周病学講座 教授)
取材・文/福田(渡邉)真由美
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