ライフプランを豊かにする様々なコンテンツをお届け
病気の予防
2020.11
寒さに向かう時期、体の末端である手足の冷えが気になる人はいませんか? 気温のせいだけでなく、ストレスや食生活の乱れなどが冷えを強める要因になるといわれています。だるさや脳のパフォーマンス低下、免疫力の低下なども、冷えが関与している可能性が。甘くみていると仕事の能率が悪くなるだけでなく、命に関わる大きな病気も招きかねません。冷えの仕組みや心身に及ぼす影響、簡単にできる解消術を医師に伺いました。
医療法人社団JOY エミーナジョイクリニック銀座
伊東 エミナ(いとう えみな)理事長
日本内科学会認定総合内科専門医、日本医師会認定健康スポーツドクター、日本医師会認定産業医。東京女子医科大学卒業後、同大附属病院内分泌内科、米国留学、文科省スーパーCOEプロジェクトによる東京女子医科大学国際統合医科学インスティテュート助教等を経て、2010年より現職。Brain Dr.として脳を含め全身の機能を分子・細胞・遺伝子レベルから高める「根本から治す医療」の啓発と実践に力を入れている。背骨や骨盤の歪みを矯正し自律神経失調由来の心身の不調を改善へと導く脊椎調整治療にも定評あり。
体の末端で外気にさらされやすい手足は、体の中でも特に冷えを感じやすい部位。よって末端の冷えが気になる場合、実はすでに全身が冷えている可能性が高いといえます。特に今年に入ってからは、新型コロナによる生活の変化で心身へのさまざまな負荷が増し、冷えや体調不良を感じている方も多いのではないでしょうか。
冷えで起こりやすい主な不調は次の通り。思い当たる項目が複数あれば、肩こりは整形外科、腸は消化器科といったような部位別の治療よりも、全身の冷え対策の方が改善の近道になる可能性が高いと考えられます。
頭痛/めまい/肩こり
薄毛
物忘れ
集中力の低下
抑うつ
アレルギー
便秘・下痢・食欲低下
かぜをひきやすい
むくみ/足の血管が浮き出る(静脈瘤)
不妊症(男性/女性ともに)
冷えの主な原因の一つは血行不良です。血液は細胞のミトコンドリアに酸素や栄養素を届け、そこでエネルギー(熱)が産生され、私たちは生命活動を行うことができます。つまり、血行不良になると、体全体の代謝機能が低下してエネルギー不足に陥るため、慢性疲労、気力の減退など、心身の活動レベルが落ちやすくなってしまうというわけです。
いつもだるい
朝、すっきり起きられない
寝ても疲れがとれない
体温が35.9度以下
さらに重要なことは、「冷えやそれに伴う症状の『根本的な原因は何か?』を考えること」と伊東先生は言います。主な根本原因としては、腸内環境や遺伝子要因、有害物質の蓄積、病原体、ストレス、栄養素バランス・嗜好品、背骨のゆがみなどさまざまなものがあるとされます。これらの原因が視床下部~下垂体~副腎系ホルモンを含む各種のホルモンや自律神経バランス、細胞代謝機能などを低下させ、脳のパフォーマンス低下やだるさ、胃腸障害、アレルギー、がんや不妊症などにつながることも…。「脳のパフォーマンス低下、胃腸症状、その他各症状が気になる場合は、他に原因が潜んでいて専門的な検査・治療が必要なケースもありますので、セルフケアや自己判断だけに頼らず、専門医を受診されることをお勧めします」(伊東先生)。
たとえ手足の冷えを感じていなくても、上記のような全身の不調やエネルギー不足を実感していたら、気づかないうちに全身が冷えている「隠れ冷え」の可能性が。血行の悪さは皮膚や体形にもあらわれやすく、例えば血色がよくない人は、自覚がなくても冷えやすい傾向にあります。また、エネルギーをつくり出すミトコンドリアは筋肉にも多いため、筋肉が少ない体形も、冷え体質の人に多くみられます。
顔が浅黒い、または青白い
唇や爪の色が悪い
筋肉の少ないやせ体形またはぽっちゃり型
年齢のわりに髪の毛がうすい(脱毛)
エネルギー不足による疲労は脳にも及びます。「考えがまとまらない」「物忘れが気になる」「能率が落ちた」といった、いわゆる「脳疲労」による仕事のパフォーマンス低下も、冷えが関係している可能性があります。
一方、冷え=代謝機能の低下ともとらえることができ、代謝が低下すると有害物質や老廃物を体外へ排出する力が弱まり、それらが体内に蓄積しやすくなります。いわゆる「解毒」がうまくいかない状態となり、前述のような各種の不調などがあらわれやすくなります。このような状態は、免疫力の低下も招きます。免疫は体にもともと備わっている、異物を排除する仕組みですが、解毒がうまくいかないために体に害を及ぼす老廃物等が増えてしまうため、免疫が“過重労働”になり、疲弊してしまうからです。免疫力が低下すれば感染症やがんといった、命を脅かす疾患のリスクも高まります。また脳の深刻な疾患としては、世界も日本も増加の一方である「認知症」のリスクも上がってしまうことは忘れてはならないでしょう。
このように、手足の冷えや関連した不調は、仕事のパフォーマンス低下や大きな病気の罹患など、思わぬリスクを背負うことになってしまいかねません。そのため日々感じている身近な不調を早期から改善することによって、深刻な疾患も予防・回避することが可能となるのです。
血行不良は、血管が収縮し血液の通り道が狭くなることで起こりやすくなります。その血管の収縮・拡張は自律神経によって支配されています。自律神経のうち、交感神経が活発になると収縮し、副交感神経が活発になると拡張します。
交感神経と副交感神経は体の内外の環境に応じてその働きを調整しあっていますが、昨今はコロナ問題も加わり、平常時よりもさらに自律神経のバランスが調整しにくくなっているといえるでしょう。また、脳の代謝が低下し脳疲労状態になると、さらにストレスにも弱くなってしまいます。ストレスにも負けない体づくりと冷え関連の不調改善および疾患リスク予防には、ご自身の根本的な原因なども医学的に明らかにして、これらの悪循環を良循環に変えるためのケアまたは治療を行うことも有効な選択肢となりそうです。
自律神経は脳の視床下部から脊髄を経て全身へと枝分かれしています。脊髄が通う脊椎に歪みがあると、神経の通り道が狭くなるなどで脳からの指令がスムーズに伝わらず、それが冷えをはじめとする心身の不調の要因になっていることも。しつこい冷えが、背骨・骨盤のゆがみ治療や猫背などの慢性的な姿勢の悪さを治すことで不調が改善するケースも少なくありません。脊椎治療と自律神経機能の改善についても、欧米では医学的なエビデンスが証明されている例があります。
手足が冷えているからといって、そこだけを温めても付け焼刃に。全身の冷えを改善することが、末端の冷えも含め気になる症状を根本的に和らげる近道となります。ここではセルフケアとしての食生活や運動等、体の内外から「体を温める」生活習慣の一部をご紹介します。簡単で続けやすい、冷え予防の習慣にしたい6項目は次の通りです。
スカーフやマフラーなどでのどや首を温めると、体温の保持や自律神経を整えるのに効果的。また、大きな筋肉のある肩甲骨まわりや太ももはもともと血流が盛んな部位なので、温めることで効率よく冷え改善につながります。特に太ももは、体の前側と後ろ側に、レギンスなどのインナーウエアの上からカイロを貼るようにすると、しつこい冷え対策に効果的。
日ごろあまり意識されないかもしれませんが、仕事やストレスにより呼吸が浅くなってしまいがちです。ゆったりとした気持ちで自分だけの空間で腹式呼吸を1日15~20分行うと、自律神経のバランスが整いやすくなります。湯船につかりながらリラックスして行う形でも良いでしょう。
シャワーでは体表しか温まらないため、深部を通る血流を促進するにはやはり湯船に浸かることが大切。心地よいと思う湯温でじんわりと、少し汗ばむくらいまで、を目安に。
旬の食材には、季節ごとに起こりやすい体調不良を整えてくれる効果があるとされています。秋冬なら人参やゴボウ、大根、カブなどの根野菜を意識して摂るとよいでしょう。
糖、特に精製された砂糖は摂り過ぎると体を冷やすと言われています。また、冷たいものの摂り過ぎも胃腸の消化活動を抑え、エネルギー源となる栄養の吸収が妨げられたり、自律神経のバランスを崩したりする原因となるため、冷えが気になる人は控えましょう。
肩や股関節といった体の中でも大きな関節には、大きな筋肉や小さくても多くの筋肉がついており、血管も密に張り巡らされているため、こまめに動かすことで効率よく血流が促されます。座ったままでもできるおすすめの体操は下の通り。
両肩を、肩先で円を描くようなつもりで大きく回す。このとき肩甲骨も動いているのを意識する。前回し、後ろ回しともに数回ずつ行う。
両手を組んでぐーっとのびをし、左右の脇が伸ばされるのを意識する。その後、頭上で両手を離し、肩を肩甲骨が動くのを意識しながらゆっくりおろす。このとき、深い呼吸も一緒に行うとより効果的。目安としては、3秒程度口からゆっくり息を吐き出し、息を吐き出せたら同じように3秒程度数えながら今度は鼻から息を吸い込みます。
なお、時間がないときは、両手を胸の前で20秒、指先の水を飛ばすような意識で勢いよくブンブン振るだけでも指先からじーんと温まってきますのでお試しを。
勢いよく拳を突き出したり、蹴り上げたりする動作では、大きな筋肉が短時間で伸縮します。これが血液を体のすみずみまで行きわたらせる“ポンプ”作用となり、手足はもちろん、全身の冷え解消につながります。リズミカルな動きはストレス解消にも効果的なので、仕事のブレイクタイムに取り入れてみるとよいでしょう。何より、「楽しいストレス発散」も自律神経バランスには大切な要素になります。