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病気の予防
2020.12
何かと忙しい年末年始は、ストレスや疲れも高まりやすい時期。そんなときこそ「お風呂」を健康づくりに積極活用したいもの。昨今、さまざまな研究により、脳のパフォーマンスアップや免疫力アップなど健康に対するいくつものメリットが確認されています。ただし、適切な入り方をしないと逆効果になってしまうことも。働き盛り世代の心身をメンテナンスし、コンディションを整える入浴術について医学的な入浴研究の第一人者にアドバイスいただきました。
東京都市大学人間科学部 教授
早坂 信哉(はやさか しんや)先生
博士(医学)。温泉療法専門医。自治医科大学大学院医学研究科修了後、浜松医科大学准教授、大東文化大学教授などを経て現職。地域医療の経験から入浴の重要性に気づき、3万人以上の入浴を調査するなど、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。一般社団法人日本温泉気候物理医学会理事、一般社団法人日本銭湯文化協会理事、一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長も務める。著書に『最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案』(大和書房)など。
湯船に浸かって体も心もじんわりほぐれ、いい気分——。私たちは経験的に、お風呂に入るとリラックスして疲れもとれることを知っています。近年、医学的な研究が進み、入浴によるストレス軽減等の健康効果が明らかになってきています。
ポカポカしてくるのはお湯の温熱作用によるもの。生体のさまざまな調節を担う自律神経のうち、休息時に働く副交感神経が温まることで優位になります。また、湯船に入ったときにかかる浮力も筋肉をゆるめ、リラックス効果を生み出すのです。
それだけではありません。湯船に入ると水圧が下半身にかかるため、ポンプ機能やマッサージ効果で血流が促されます。冷え解消や疲労回復につながるほか、血管が拡張するため血圧も下がりやすくなります。
また、血流がよくなれば、血液による栄養素の運搬もスムーズになり、糖代謝が促されるので血糖値のコントロールにも。血圧や血糖値が気になる世代にとって、入浴は生活習慣病予防の観点でもメリット大といえるでしょう。
昨今、注目されている「免疫力」も入浴で高まる可能性を示唆する研究があります。
そもそも免疫とは、生体にもともと備わっている、異物を排除し病気から守るシステムであり、おもに血液中のリンパ球に含まれる免疫細胞と呼ばれる細胞群が担っています。その一部が、入浴による体温上昇で増加するとの報告があります。
また、湯温40~41℃の10分間の入浴で、唾液に含まれる抗体の一種「IgA」が増加したという報告もあります。唾液中のIgAは、口や鼻に多く存在し病原体の侵入を防ぐ役割を担っています。これが十分にあると風邪にかかりにくいという研究結果もあります。
参考 入浴で口や鼻粘膜の免疫を担う抗体が増えるという研究結果も
20~50歳代の健康な男性10名を対象にした研究で、40℃~41℃の湯温で10分間入浴し、「入浴前」「入浴中(入浴開始5分後)」「入浴後」に唾液を採取しIgAを調べたところ、入浴中の1分当たりの唾液中のIgA分泌量が入浴前に比べ統計学的に有意に増加した。(出典:鈴村恵理他「健常人における温泉浴の唾液分泌と唾液中分泌型IgA分泌に及ぼす影響」日温気物医誌第70巻3号2007年5月)。
さらに、週の入浴回数が多いほど将来の認知症発症リスクが減るという研究報告も。入浴により脳血流が促されることが良い影響をもたらすと考えられます。働き盛り世代にとっても、入浴は記憶力や思考力といった脳パフォーマンスにとって、プラスに働くことが期待できます。
睡眠をしっかりとることが、免疫力の維持向上につながることは、多数の研究からすでに分かっています。熟睡できて朝に疲れを持ち越さない、質の良い睡眠をとるためには、実は入浴のタイミングがとても大切。就寝する1~2時間前に入浴をすませておくことで、布団に入るころ体温が程よく下がり寝つきが良く深い睡眠が得られることが報告されています。
副交感神経を優位にし、リラックスを得るには38~40℃の「ぬる湯」に10分程度、ゆっくり浸かることが勧められます。これにより体の芯まで温まり、血流が改善します。
いわゆる「カラスの行水」は逆効果です。先のIgAの研究では、42℃になると分泌が下がってしまう結果も出ています。また、体表だけしか温まらず湯冷めしやすいため、入浴の温熱作用が得られないどころか風邪をひくもとにも。湯温は熱すぎないことが、メンテナンス入浴には重要といえそうです。なお、入浴時は浴室内外の寒暖差をなくすことや、水分補給を心掛け、万一の事故がないようにすることも大切です。
入浴剤を使う際には、安全性と効果効能が保証されている「医薬部外品」または安全性が保証されている「浴用化粧品」の表示があるものをお勧めします。その上で、冷えが気になる場合は血管拡張作用がある炭酸系(気泡が出るタイプ)、肌のかさつきには保湿剤配合の液体タイプなど、目的や好みで選ぶと良いでしょう。
「ヒートショック(寒暖差による血圧の乱高下が引き起こす心筋梗塞等の事故)」を防ぐため。浴室にはあらかじめシャワーで湯をかけておくか、浴槽のふたを開けておくと良い。
手足など末端から湯をかけて体を湯温に慣らす。
のぼせそうなら一度出て入りなおす。
※入浴効果を得るには肩まで浸かる全身浴が基本ですが、心機能に不安がある方は半身浴が安全です。
皮膚の乾燥を防ぐため。十分泡立てて素手などでやさしく洗う。
メールやSNSなどは避け、ぼーっとする時間を大切に。
入浴前後にコップ一杯の水を。ペットボトルを脱衣所に置くなど、入浴中も汗をかいたら補給できるようにしておくとなお良し。
入浴後の皮膚は表面から水分が蒸発しやすい状態になっています。体内に水分補給するだけでなく、市販のボディミルクなどで皮膚にもうるおいを与えることを習慣にしましょう。近年は入浴中の保湿(=インバスケア)も時短かつ効果的であるとされ、浴室内で使える保湿剤も登場しています。