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食事
2021.04
年度替わりで環境や人間関係の変化が大きい春は、強いストレスを受けやすい時期。ここぞのときにお腹がくだる、イライラして便秘に、そんな「ストレスがお腹にくる」人も多いのではないでしょうか。慢性的な腸の不調は近年、脳パフォーマンスや内臓機能の低下など、全身に悪影響をもたらすことが注目されています。リモートワークで運動量が低下し、生活や睡眠リズムが乱れがちな昨今、お腹の不調を感じる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。「たかがお腹のことで」と我慢せず、適切なケア&治療で整えましょう。テレビや雑誌でおなじみの消化器専門医が解説します。
江田クリニック院長
江田 証(えだ あかし)先生
日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。自治医科大学大学院医学研究科修了。消化器がんに関連するCDX2遺伝子がピロリ菌感染胃炎で発現していることを世界で初めて米国消化器病学会で発表し、英文誌の巻頭論文として掲載。米国消化器病学会(AGA)インターナショナルメンバーを務める。国内でいち早く、過敏性腸症候群の多くを占めるSIBO(小腸内細菌異常増殖)に着目し、啓発に尽力。『腸内細菌の逆襲』(幻冬舎新書)、『3週間でお腹が整う まいにち腸日記』(池田書店)など著書多数。
繰り返す下痢やがんこな便秘。お腹がいつも気になって、何をするにも身が入らない……。
お腹の不調の中でも、画像検査などでわかる明らかな異常がないのに、便通異常や不快感が慢性的にある状態を「過敏性腸症候群(IBS)」といい、ビジネスパーソンに目立つ疾患として知られています。特に20~30代、また男女比は、約1:6で女性に多いことがわかっています。
「たかがお腹のことで、と我慢してしまう人も多いのですが、実は、全身のさまざまな臓器の機能低下と関連性があり、生命予後にも悪影響を及ぼすことがわかってきています」と江田先生は話します。その中でも見逃せないのが脳機能の低下です。
「IBSは『ブレインフォグ』と呼ばれる、文字通り頭に霧がかかったようにぼうっとして考えがまとまらない、といった状態を合併しやすいことがわかっています」(江田先生)
要因として有力視されているのが「SIBO」と呼ばれる小腸内での細菌の異常増殖です。乳酸を過剰につくり出し、だるさや脳機能の低下を招くとされるこの疾患は、IBSの8割以上に合併しているといわれています。その他、頻尿、不安やうつ、慢性疲労、認知症、パーキンソン病等との関連も国内外で報告されています。
次のような症状があり、市販薬を使っても改善せず2週間以上続くようなら、我慢せず消化器科を受診することをおすすめします。
下痢が頻回にあり、そのために外出や人前に出ることなどを避けようとする
いきまないと便が出ない(排便困難)、残便感があり日に何度もトイレへいく
お腹にガスがたまり、張っていて苦しい
特に注目すべきは「お腹の張り」。お腹がいつもガスでふくらんでおり、ゴロゴロ鳴るような場合、便通にさしたる異常がなくてもIBSが疑われます。
ここ1年ほどで広まってきた在宅勤務。これによりお腹の不調が増加傾向にあるといいます。江田先生は「昨年実施された3,000人規模の調査で、対象者の半数以上がお腹の不調を訴えており、その4割以上が便秘との報告もあります」と話します。考えられる主な理由は、座りっぱなしで同じ姿勢をとり続け、運動不足になりやすいこと。「1時間デスクワークしたら立ち上がって体を動かす習慣が大切です。特にストレッチなどの体を伸ばす動作が効果的です」(江田先生)。
IBSの大きな要因はストレス。脳と腸は「脳腸相関」ともいわれるように、神経系などを介して密接に影響を及ぼしあっていますが、IBSにおいてもこれが関係しているといいます。
「ストレスがかかると脳の視床下部からCRH(corticotropin releasing hormone)というホルモンが分泌され、迷走神経を介して腸に達します。一方、腸粘膜には肥満細胞という免疫細胞の一種が多く存在しますが、脳からきたCRHの刺激で破裂し、その中から炎症反応の引き金となるヒスタミンが大量放出されます。これが腸粘膜を構成している細胞間の結合をゆるめ、腸のバリア機能が低下するのです。そうすると、通常は悪さができない、腸内でつくられる毒素などが漏れ出て腸粘膜にダメージを与え、IBSの諸症状を起こす炎症のもとになると考えられています」(江田先生)。
参考1 腸の不調は免疫機能の低下につながる
腸粘膜のつながりが壊され、毒素やウイルスなどをはじめとする有害物質が腸管粘膜内や血管内へと漏れ出し、免疫機能の低下につながる(江田先生への取材をもとに作成)。
脳とも密接に連携しあう腸はデリケートな存在です。普段の生活習慣が腸内環境に及ぼす影響はとても大きいといえます。お腹の調子が気になる人が特に心がけたい点は次の通りです。
参考2 腸のおそうじタイム「MMC」
腸は空腹時に消化物や悪玉菌等を処理し、腸内環境を整えている(江田先生への取材をもとに作成)。
なお、IBSに対する治療は、薬物療法と食事などの生活指導が柱になります。「下痢には、神経の安定に働く脳内物質のセロトニンを調節する作用のある薬の効きがよく、便秘に対しても、近年、効き目と安全性ともに優れた新薬が登場してきています」(江田先生)。なお、前述の性格傾向が強い患者さんには、精神科医との連携のもと、認知行動療法やマインドフルネスといった心理療法が検討される場合もあります。
IBSをはじめ、ストレスの関与が大きいとされる症状の改善に「日記」が有効であるとの説が近年、注目されています。内容は「その日の“良かったこと”を3つ」、各1行程度の短文でOK。「セルフディスクロージャー(自己開示)という心理学上の手段の1つで、良かったことを“見える化”することで自己肯定感が高まり、ストレス解消になります。腰痛やぜんそくの改善にも良いとの論文発表もあります」(江田先生)。たった3行書くだけで気持ちが晴れ、不調の解消にも役立つとなれば、試してみる価値大といえるでしょう。