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健康管理
2021.08
夏から秋は気温の変化や夏の疲れで体調を崩しやすい季節。こんな季節は心臓の拍動(心臓がポンプのように収縮と拡張をくり返すこと)のリズムが崩れやすくなり、不整脈も起こりやすくなります。その多くは加齢や体質、疲労やストレスの蓄積、睡眠不足による一時的なもの。これらの多くは治療を要さないものですが、中には治療が必要な心臓病が隠れていることもあります。今回は、危険な不整脈の見分け方やセルフケアなどについて専門家に伺いました。
国家公務員共済組合連合会 立川病院 顧問
三田村 秀雄(みたむら ひでお)先生
慶應義塾大学医学部卒業後、Jefferson医科大学研究員、慶應義塾大学医学部内科助教授、同心臓病先進治療学教授、東京都済生会中央病院心臓病臨床研究センター長等を経て2013年より国家公務員共済組合連合会 立川病院院長、2020年より現職。専門は心臓病一般、特に不整脈・心臓電気生理学で、日本の不整脈研究および臨床の第一人者。2016年には日本AED財団を立ち上げ、理事長として幅広くAEDの普及啓発に尽力している。
心臓が血液を送り出すリズムが乱れることで、脈が乱れる状態を「不整脈」と言います。不整脈の種類は、その多くが年齢によって変化していきます。
例えば、若者では脈拍が遅くなる「徐脈」がしばしば認められます。通常は安静時1分間に60〜80回程度の脈拍が50台、ときに40台になることもあります。スポーツマンに多く、ほとんどが無症状であり、治療を要することは稀です。脈が突然速くなる「発作性上室性頻拍」と呼ばれる不整脈も若い人の中に認められます。こちらは通常、先天的な心臓の電気系統異常を持つ方に起こるものです。
30歳代以降になって増えてくるのが、「期外収縮」と呼ばれる不整脈です。これはいわば「心臓のしゃっくり」のようなもの。「本来の(予期した)タイミングの手前で(外れて)心臓が収縮(期外収縮)してしまう」ので、心臓の鼓動がつまずくように感じ、一瞬「ウッ」と心臓がねじれるような感覚が生じます。
あるいは、期外収縮の瞬間だけ心臓から送り出される血液量が少なくなり、そのあとの心拍を強く感じるので、そのときだけ強く「ドキン」と感じることもあります。期外収縮は、単発的に感じることもあれば、周期的に数秒毎に出現、という場合もあります。
60歳以上になってくると「心房細動」と呼ばれる不整脈が増えてきます。高齢化の進む現在の日本においては、特にこの心房細動が増加傾向にあります。一般的には年齢が背景因子となりますが、過度な飲酒や高血圧、肥満、睡眠時無呼吸症候群などもその誘因となります。若い人でも心房細動になることが稀にあり、それには甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)が関与していることがあります。
心房細動
(三田村先生への取材をもとに作成。以下同様)
不整脈に伴う「どきっとする」ような不快感の多くは、期外収縮によって起こるものです。これらの多くは良性で危険なものではありません。期外収縮は普通のタイミングよりも早く心臓が収縮することで生じ、普段の脈が遅いときほどそのタイミングのずれを顕著に感じます。このため、意識的に歩くなど体を動かして普段の脈を速くしておくと、タイミングのずれを自覚しにくくなるので気づかずに済むこともあります。四六時中、期外収縮が出ることは稀なので、そのような対処法を知っておくと役に立つかもしれません。
規則正しい脈の人に突然、不整脈が現れるきっかけとして、自律神経の変調がしばしば関わっています。自律神経は、昼間は交感神経、夜間は副交感神経の活動が活発になります。この変動に応じて昼間や運動時に増える不整脈もあれば、夜間や安静時、睡眠時などに生じる不整脈もあります。
不整脈は常に出現しているとは限らないため、それを捉えるために長時間にわたって携帯型の心電図記録装置を装着して連続心電図記録をとることがあります。この中で、例えば、期外収縮の出現が「通勤時だけ」「会議中だけ」「食事のときだけ」「ジョギングなど運動時だけ」「飲酒時だけ」「睡眠中だけ」など特定の行動と連動している様子を認めることがあります。それぞれに自律神経の働きが誘因していると考えられ、その変動を上手に捉えることができれば、不整脈を抑えられることもあります。特に心房細動(前述)という不整脈は、飲酒中や飲酒後に出現することが多く、疲れているときに睡眠時無呼吸症候群が重なると、さらに起こりやすくなると知られています。
不整脈は心臓の電気的な不調の結果生じるものですが、その故障を引き起こす背景に、心臓の筋肉(心筋)の病気が存在することもあります。有名なものが「心筋梗塞」です。
心筋梗塞
心筋梗塞はどちらかというと冬の寒い時期や、ストレスの多い状況、仕事が忙しく睡眠不足になっている場合に起こりやすく、そこにも自律神経の変動が関わっています。従って心筋梗塞に伴う心室細動、突然死もそのようなときに生じやすい特徴があります。
不整脈は、心臓に病気がなくても起こります。ただ、心臓の病気がある人に起こる場合には、症状が強くなったり、危険な場合もあります。心臓の病気はさまざまで、冠動脈という栄養血管が詰まって起こる心筋梗塞や、筋肉の病気である拡張型心筋症、肥大型心筋症、あるいは高血圧による心肥大などが比較的多くみられます。その他にも心臓弁膜症、先天性心臓病などに不整脈が合併することもあり、健康診断で見つかることも少なくありません。
不整脈の症状として広く知られているのが、「動悸」です。動悸とは普段は感じることのない心臓の拍動を自覚することを言いますが、「脈が異常に遅い」あるいは「異常に速い」といった形で現れる動悸は、それが持続する場合はもちろん、一過性のものであっても循環器内科の受診をおすすめします。
「脈が2倍以上の速さになって数時間経過した」場合や「息苦しさや胸痛を伴っている」場合には、不整脈と狭心症、心筋梗塞、心不全などを合併している可能性もあります。不整脈に伴う息切れや胸痛などは体に危険が迫っているサインです。こうした場合もすぐに受診することをおすすめします。症状が強い状態であれば、救急車を呼んでもよいでしょう。
また、脈がバラバラになる心房細動(前述)が2日以上続くと、脳梗塞を合併する危険があります。そのような場合には、症状が軽くてもなるべくその日か翌日には受診することをおすすめします。
一方で、「危険な状態であることに気づかない」という場合もあります。その典型が「めまいや失神」です。症状が一過性だと「もう平気」と思いこんでしまい受診せず、その原因を明らかにしないままにしてしまうケースや、神経内科や耳鼻科の病気と間違えることもあり、注意が必要です。確かにめまいや失神は、単なる立ちくらみや寝不足などによるものもあります。しかし、見落としてはならないのが不整脈によるめまいや失神です。
脈が途切れて、めまいや失神につながる場合は、ペースメーカーが必要となる不整脈かもしれません。さらに怖いのは「心室頻拍(ひんぱく)」と呼ばれる不整脈です。それがさらに乱れると、突然死の原因となる不整脈である「心室細動」に移行することがあります。実は、これが不整脈の中で最も危険な、命に関わる不整脈です。
心室細動
めまいや失神に留意しなければならないのは、その原因が心室細動の一歩手前ともいえる心室頻拍によるものであった疑いがあるからです。これらが一過性の場合であると、受診してもそこでは不整脈を検出できず、診断できないこともあります。危険性が高いと判断される場合には、入院して心電図の連続モニターを開始することが必要な例もあります。
めまいや失神があったときには、「それが突然死の前兆かもしれない」という認識を持ち正しく速やかに行動することが大切です。
脈がしばしば遅くなる
(50~40回以下/分)
脈がしばしば速くなる
(100回以上/分)
脈がバラバラで一定しない
脈が通常の2倍以上の速さになり、
すぐに止まらない
不整脈に胸痛や息苦しさを伴う
不整脈でめまいや失神を起こした
無症状の場合、健康診断が不整脈と診断されるきっかけとなることがあります。動悸については、それが現在も起こっていれば、不整脈によるものか心電図で診断できます。既に消失しているけれど原因を確認したくて受診した場合には、まずその動悸が異常に速い、あるいは遅い、あるいは乱れているものかを面談などで聞き出します。その上で、24時間以上連続して心電図を記録できる携帯型心電図記録装置を装着し、記録されたデータを解析して調べることになります。そこでデータに不整脈が見つかれば診断につながります。また、心臓に何らかの病気がないかを調べる心臓超音波検査や血液検査など、診断に際してはさまざまな検査法があります。
めまいや失神が発生した場合には、緊急性が高いことも多いため、入院すべきかどうかをその場で判断することになります。その上で、病室で心電図モニターをするか、自宅で連続心電図検査をするかを選択することになります。
最近では、医療機関での検査とは別に自分で診断、ということも可能になりつつあります。自覚症状が全くなくても毎日血圧を自宅で測定している方は、脈拍の急な変動や、血圧測定不可が繰り返されたときに不整脈に気づくことがあります。また、脈拍を測定したり、健康管理ができる腕時計型のスマートウォッチを活用して、不整脈を検出した場合に通知する試みもあり、特に脳梗塞につながりかねない無症状の心房細動の検出に期待が寄せられています。
脈の測り方